みらっちの読書ブログ

本や映画、音楽の話を心のおもむくままに。

エッセイの師匠4【食べる/ドリアン助川】

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こんにちは。

みらっちです。

 

前回に引き続き、文章、特にエッセイを書くにあたり、影響を受けた作家さん。

 

ミュージシャンの方が書くものに、非常に心惹かれます。

 

古くは中島らもさん、町田康さん大槻ケンヂさんのエッセイにも衝撃を受けましたし、星野源さんもなかなかになかなかなんですが(わ~。並べただけで、濃いラインナップ……)。

 

ここはひとつ、ドリアン助川さんで。

 

若い頃、たぶん何かの雑誌で初めて、ドリアン助川さんの存在を知りました。

 

だから最初のころのドリアン助川さんの印象は、「すごい詩人」でした。「叫ぶ詩人の会*1」の名に恥じない強烈で爆発的な言葉の数々に圧倒されたのを覚えています。

 

宮沢賢治に影響を受けた、とどこかで書いていらっしゃったのにも、強く共感しました。ドリアン助川さんに興味が涌いたのはやはり、この「宮沢賢治」の吸引力が大きかったと思います。

 

でも実際に彼の歌や音楽に直接接したことはありませんでした。だいたいが、雑誌などで見かけると「あ。ドリアンさんだ」と思って読む、という感じ。

 

ニューヨークに行った、と何かで目にして。帰国後『オバケの英語』が出たときは、ちょうど私も英語を勉強中だったので購入しました。なんか、この通りやったらメッチャ発音良くなる気がするぅ~と思いました。が。自分が根気がないのを棚に上げて言うのもなんですが、もうそれは私の中では「小説」であって「英語教材」ではありませんでした。『オバケの英語』たぶん絶版なんですが、すでに手元にありません。とっとけば良かったなぁ。

 

その後、またお名前を耳にしなくなり、次に「おお」と思ったのはかなり最近。樹木希林さんの最後の主演映画「あん」の原作者がドリアン助川さんだった、と知ったときです。

 

『あん』(2013年)。

映画(2015年)の方を先に観てしまって(配信で観ました)、あれはあれでとてもよかったですが、小説はもっといいです。フランス、ドイツ、イタリア、イギリスなどを始めとした14の言語に翻訳され、映画は50か国以上で上映されたそうです。そのうえ、フランスでは三つの文学賞を受賞し、リセの教科書にも載っているとか。

www.kinokuniya.co.jp

 

an-movie.com

 

映画のほうは、監督が河瀨直美さん。樹木希林さんが孫娘の内田伽羅(うちだ・きゃら)さんと共演したことも話題になりました。どら焼き屋の店長さん役の永瀬正敏さんがまた良いです。さらに樹木希林さん演じる徳江の親友役で出演されていたのが市原悦子さん。樹木希林さんと市原悦子さんの円熟した演技の競演。見どころです。

 

樹木希林さんも、市原悦子さんも故人となられましたね……

 

原作はもう少し、ハンセン病を患った徳江さんの人生について、また病について、想像を絶する差別について、徳江さんの言葉でしっかりと語られます。

 

現在の朝ドラ『カムカムエブリバディ』のヒロイン安子が、おはぎを作るときに「おいしくなぁれ」と言ったり「小豆の声を聞く」と言っているのを目にすると、徳江さんのことを思い出します。これは『あん』を意識してのことなのでしょうか??

 

さらにさらに。ドリアン助川さんは49歳の時にフランス語を勉強し始めて、なんと『星の王子さま』のフランス語訳をして出版しています(2018年)。

www.kinokuniya.co.jp

実は私、別のところでポプラ社から新しく子供向けのノベルとして出た『星の王子さま』の感想を書いたことがあります(矢部太郎さんが絵を描いています)。

 

Review 5 スリスリ|みらい|note

 

そちらも子供に向けた新しい『星の王子さま』としてよかったですが、ドリアン助川さんの訳もとてもいいです。サンテグジュペリの挿画というのもいいですし、「あとがき」が素晴らしい!出版の経緯や、サンテグジュペリのことなど、詳しい解説を書いてくださってるのですが、あとがきと言うより、ほぼ伝記です。

 

助川さん、2019年からは明治学院大学国際学部教授に就任されたとのこと。他に、日本ペンクラブ常務理事、日本ペンクラブ「子どもの本」委員長、日本文藝家協会会員という肩書も。

 

なんか、なんかすごい立派になった気がする!(👈超失礼)

 

ドリアン助川さんの文章の何がいいと言って、「流麗」なこと。

 

流れる。

 

ミュージシャンの方々の文章には特に特徴的なことですが、みなさん独特のリズムがあります。すらすらっと、さらさらっと流れていく感覚があります。残らないとかではないんです。全く逆です。声に出せる。音読がまさに音楽になって流れるような文章です。たぶん、すべてにおいてまず言葉を音声として発した時にどうか、ということが基本になっているような気がします。町田康さんしかり。大槻ケンヂさんも、星野源さんもそうなんです。

 

中でもドリアン助川さんの文章は特に流れを感じます。比較的初期の頃は、句読点がないんじゃないか、と思うほど、あっても句読点の存在を忘れるほどの急流です。エッセイは特にそう思いますが、小説はもう少しゆっくりで、アンダンテくらい。

 

そして言葉の熱量

 

ひとつひとつの言葉に言霊がしっかりみっちり詰まっているような、厳選された言葉です。それが流れるように配置されている感じです。

 

初期のころのエッセイ集『食べる』

www.kinokuniya.co.jp

 

こちらは、自ら選んだ7人におくる、熱いラブレターです。そのひとりひとりにまつわる食べ物をめぐるエッセイになっています。

 

一番最初のラブレターは、宮沢賢治に宛てています。

食べ物は「ウニ」。

なぜウニか。

その理由を目にしたとき、強いショックを受けました。

ウニか!確かにウニって書いてたな!賢治が!と。

 

ごめん全然そこすっ飛ばしてました。すみません!と思いました。そして、ドリアン助川さんの言葉へのアンテナの繊細で敏感なことに改めて感銘を受けました。他の人がスルーしてしまう言葉を救い上げる力が、詩人にはあるのだなぁと思います。

 

2020年にkindle版が出て、その際の「あとがき」で、この7通の手紙が「若書き*2」だったと振り返り、今現在と未来へ、これもまた流れるように自らを語っています。

 

宮沢賢治よ

宮沢賢治よ

宮沢賢治よ

あなたが消えてしまってから幾度の陽が昇り、幾度の陽が沈んだのだろう。

あなたが目指した世界は、今地上にあるのか。

俺たちもまた道を探すものである。

永遠のその道を探すものである。

この夜もはるか空の上

桔梗色の銀河の彼方から

俺たちを見守ってくれ。

俺たちを。

(「食べる」kindle版より)

 

この詩はドリアン助川さんが高校時代に書かれた詩だそうです。それ以後、いろいろなところで朗読をしているとのこと。

 

詩を書くこと、読むことは自己満足の世界では決してありません。それは見えないところで影響力を持ち、何かを変えさせる、あるいは何かを生み出していく力につながるものです。(「食べる」kindle版より)

 

はい。

確かに私は、まとまった形で、どっぷり浸かって、という形ではドリアン助川さんの詩の世界の中に身を投じてはいないのですが、でも確実に影響を受けていると思います。

 

そしてまた、この方もまた、ヤマザキマリさんと同じように「地球人」なんです。生きる場所が地球。世界各国を放浪し、様々な国や土地の空気を吸い込み、エッセイにされています。

miracchi.hatenablog.com

 

もし、ドリアン助川さんの言葉の魅力に接したことがまだない、とおっしゃる方がいらっしゃるのであれば、ぜひ、この機会に読んでみられてはと思います。とっつきやすい『あん』からでも『星の王子さま』からでも。ぜひ。

 

 

 

 

 

 

*1:1990年に結成したロックバンド。バンドサウンドにのせて、強烈な詩を絶叫しながら朗読するバンド

*2:ある程度年齢がいった作家の若い頃の作品