みらっちの読書ブログ

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電子書籍のこれまでとこれから【『50代から始めるデジタル出版 定年で名刺を失う前に考えよう』/鎌田純子】

 

実をいうと、私はこの本を、なんと「謹呈」されています。

―――などというと、おいおいどうした、と思われると思いますが、これが事実なのです。

 

『50代から始めるデジタル出版 定年で名刺を失う前に考えよう』を著された鎌田純子さんは、株式会社ボイジャーの社長さんです。デジタル出版ツール「Romancer(ロマンサー)」を運営している会社、といったほうが、ピンとくるかたもいるかもしれません。

store.voyager.co.jp

 

私はAmazonでkindle本を出版する際、初めてRomancer(ロマンサー)の存在を知りました。以来、愛用させていただいています。

 

kindleなどで本を出版するには、原稿を「EPUB」というファイル形式のデータにしなければいけません。原稿を「EPUB」に変換するには、変換できる機能を持ったソフトやアプリケーションなどの電子書籍制作ツールを使う必要があります(オーサリングサービスというのだとこの本で知りました)。Romancer(ロマンサー)はその制作ツールのひとつです。

 

厳密にいえば、電子書籍制作ツールは「電子書籍変換ツール」と「電子書籍制作ツール」に分けられるのですが、Romancer(ロマンサー)は「変換ツール」になります。

 

私はWordを使用して原稿を作っていたので、Romancer(ロマンサー)はベストチョイスでした。これまで15冊ほどの文庫本を作っているのですが、その都度、お世話になっています。どんなところが気に入っているか、というと、次のようなことです。

 

①縦書きで、変換したあとの原稿が美しい

 多少融通の利かないところはありますが、ルビが入っても行間にすき間が開くこともありませんし、おおむね思った通りのヴィジュアルになります。

②電子書籍に立体的な表紙をつけることができる

 電子書籍ながら「本」という手ごたえを感じられます。

③作品が出来た後の自由度が高い

 出来上がった作品を「非公開」「公開」「限定公開」の中から選ぶことができます。

 「限定公開」にすれば、作品のURLを利用してHPなどで公開することもできますし、LINEなどに添付して特定の人に読んでもらうこともできます。「公開」にすればRomancer(ロマンサー)の中に公開することもできます。

 私は当初、自分の作品を本にしようなどとはさらさら思っていなくて、縦書きの電子書籍として友達とシェアしあえるこの機能があれば、もう何も要らないと思っていました。

 最初はLINEにURLを貼って読んでもらい、次にCanvaで作ったWEBサイトに掲載しました。WEBに本を集めて一元化し、WEBサイトを自分の本の書店か図書館にしようとたくらみましたが、残念なことに、CanvaのWEBサイト上では非常に重く、その目論見は脆くも崩れ去りました。その結果、結局は紙の本を出すに至るのですが。

④出来上がった電子書籍を国立国会図書館に納本できる

 このサービスもとても魅力的です。昔から、自分の本を国立国会図書館に納本するのが夢でした。電子書籍をロマンサーで、そしてAmazonで作った紙の本を自分で国立国会図書館に持ち込んで納本しました。

 紙の本を納本するには15冊以上の販売実績が必要なのですが(調べられたりはしませんが目安として国立国会図書館のサイトにそう書いてありました)、電子書籍はできたらすぐ納本することができます。しかもRomancer(ロマンサー)の会員になれば納本の手続きはすべてロマンサー側がやってくれます。素晴らしいサービスだと思います。

 

 使っていて残念だなと思う点もあります。

 それは、原稿を自在に編集できないことです。いちどWordからコピペした文章は、ある程度削除することはできますが、ロマンサー原稿の中でコピペしたり、大幅に文章を移動したり、まとめて削除することができません。ロマンサーのなかで調子に乗って大きく文章を変え、それを再びWordにして保存しようと思っても、できないのです。

 ルビをつけたり、文字を直したり、改行したりはできますが、空白ページをつくりたいとか、ページの中での空白を無くして次のページの文章を前の章につなげたいなどの自由がききません。おそらく他人が簡単に剽窃したりできないようにするためなのだろう、とは思いながらも、これが地味にストレスではあります。

 

 それ以外は大満足のRomancer(ロマンサー)。

 

 『50代から始めるデジタル出版 定年で名刺を失う前に考えよう』は、タイトル通り50代以上のシニア世代に向けての電子書籍の手引きになっています。

 なぜ特に50代なのかというと、生まれた時からネット環境が整っていたデジタルネイティブ世代と違って、インターネットの黎明期から今に至るまで、その発展の一部始終を見聞し、経験してきた世代だから、なのだそうです。

 だからこそわかること、だからこそ面白い体験を持っていると、著者の鎌田さんは言います。その経験、体験を本にすることは個人としての生きがいにも繋がるし、それらの体験から得たノウハウを後世に語り継ぐこともできます。

 

 その「個人作家の作品例」の中に、私の『駐妻記』がピックアップされています。その関係で、協力いただいたから、という理由で、「謹呈」とあいなったわけです。

 

 いえ。協力したどころか。私、ロマンサーのおかげで「kindle本」「文庫本」を作り、それをもとに神田神保町の共同書店の棚主になり、今度の文学フリマにも出店しようとしてますけど。むしろ完全に協力していただいているんですけど・・・!

 

 本当に、感謝の言葉しかありません。

 作品例として拙著を取り上げていただき、ありがとうございます。

 

 さて、この本の凄いところは、このあとです。

 

 様々な作家さんたちの実例を出した後、鎌田さんは「出版・デジタル出版の仕組み」から、「出版ビジネスの仕組み」「電子書籍をつくるためにどんな知識が必要か」「どのように準備するのか」ということを、非常に細かいところまで丁寧に説明してくださっています。

 私はこのことに、心から感銘を受けました。

 電子書籍をめぐる出版の現実を、きちんと説明してくださっている本やサイトには、なかなか巡り合うことができません。ネット上にあるのは断片的な「記事」です。私はこの本から、知識教養としてたくさんの気づきを得ました。やはり、デジタルであれ、紙の本であれ「書籍」として体系的にまとまっているものに勝るものはないと思いました。

 

 特に学びが深かったのは、出版や出版をめぐるビジネスの仕組みと、EPUBについての詳しい説明、電子書店の仕組みと登録のしくみ、最後に、株式会社ボイジャーの歴史と電子書籍の歴史です。

 ロマンサーでコピペなどの編集が自在にできない理由もわかりましたし、なぜロマンサーがソフトやアプリではなくWEBブラウザでのサービスなのかの理由もわかりました。

「デジタル出版30年の成長」はそのまま、ボイジャーの歩みであり、鎌田さんの歩みでした。確かに、直近の30年間を大人として過ごした50代は、この章をしっかり受け止めることができると思いましたし、知らないことばかりで驚きました。

 

私が考えるデジタル出版は、誰でも作ることができる、誰でも読むことができる、誰でも売ることができる。そして将来にわたって残すことができる。紙の本が担ってきた役割と同じように、文化を育てることに一役買う存在であり続けることです。

(p125 第5章 テーマを見つけて形にしよう「デジタル出版30年の成長」より)

 

 

 この本を読んでいて、私はとある本を思い出しました。

 『本はこれから』という本です。感想文も書きました。

 

miracchi.hatenablog.com

 

 『本はこれから』は、今から14年前、いよいよ台頭してきた電子書籍に対する当時の反響、反応といったものが様々な立場の方々のエッセイを通して語られている本です。株式会社ボイジャーの前社長さんである萩野正昭氏もエッセイを寄せられています。

 

 こちらの本を読むと、当時の電子書籍に対する人々の考えは、今で言えばChatGPTやAIに対する不安や畏れや期待といったものに似た戦々恐々とした状況だったことがうかがえます。紙の本に執着する声が多く、電子書籍に肯定的な意見は少なかったように思います。たった14年前ですらそうなのですから、30年前は推して知るべしです。

 実際、『50代から始めるデジタル出版』の「デジタル出版30年の成長」でもPC以外にまだ有効な端末がなにひとつなかったところからのスタートだと書いてありました。大変な逆風だったと思います。

 

 しかし、スマートフォンが主流になった今、電子書籍のインタラクティブな面や、オーディブル(読み上げ)や拡大機能など、障害のあるかたや年配者にとってもアクセシブルな面は非常に重要な要素になっていると思います。なにしろ超高齢化社会です。紙の本にはない素晴らしさを享受する人は増え、需要は高まっていくと思います。

 

 どんな時代も、新しいものが台頭してきたときの反応は夢や希望や期待と言ったポジティブなものより、恐れや不安が上回るもののようにも思われますが、その賛否両論渦巻く中を、果敢に立ち向かって電子書籍の未来を切り拓いてこられた萩野さんや鎌田さんに敬意を表さずにはいられません。

 

 書くことは、労力、忍耐、努力を伴う活動です。何日もかけて数万文字を書いても一人の読者すら見つからないように思えるかもしれません。しかしあなたの本の読者は必ず世界のどこかにいます。

(p4 はじめに より)

 

 心強い言葉に、励まされました。

 50代に限定するものではなく、電子書籍に挑戦してみませんかという手引きというだけではなく、「本のこれまでとこれから」に思いを馳せるためにも、ぜひとも幅広い年齢層の、たくさんの人に読んで欲しいと思う本でした。