みらっちの読書ブログ

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エッセイの師匠3【ミステリーの掟102条/阿刀田高】

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こんにちは。

みらっちです。

 

前回に引き続き、文章、特にエッセイを書くにあたり、影響を受けた作家さん。

 

今回は、阿刀田高さんです。

 

完全にシリーズ化しているみたいになってますが、特に意識しているわけではありません。

 

そして、影響を受けた順番で書いているわけでもありません。

 

先日、とても久しぶりに阿刀田さんのお姿を拝見しました。

 

アベマTVというネットの番組です。

 

アベマTVというのは皆さんご存じだと思いますが、ライブストリーミング形式インターネットテレビサービスのことです。ネット上で配信されるテレビ、というところでしょうか。

 

たまたま阿刀田さんの名前を検索したら「ひろゆき」と出てきて、なにごとか?と思って観てみました。

 

ひろゆき氏もゲストで、「手書き文字の是非」を討論していましたが、正直、ガチャガチャしていて討論にはなっていなくて「日本の討論のレベルって低い」と思わざるを得ない感じでした。

 

御年86歳の阿刀田さんの姿をお見掛けしたことだけが、嬉しいことでした。終始落ち着いた感じでお話されていましたが、とにかく阿刀田さんが話していると途中からひろゆき氏が茶々を入れてきて話をさえぎってしまうので、阿刀田さんが最後までお話しすることができず、酷いなと思いました。人の話は最後まで聞こう。

 

そんなわけで、きちんと話し合いが行われたとは到底思えないので、内容や自分の意見はさて置いておいて、印象的だったのは、阿刀田さんのこんな発言でした。

 

「私が小説を描くときは、最初の一文から最後の一文まで完全に出来上がった状態で書き始める」

 

 

 

すごい。さすが小説家。

 

この時の阿刀田さんの言わんとしたことは、人間は文字を書くときに熟慮しながら書くことが大切で、それによってしっかりと脳を使うことができる、考えると言うことは書く訓練なしにできない、だから子供が手書きの文字教育を受けることはとても大事だ、という趣旨でした。(どうでもいいことですが、ひろゆき氏の主張はテクノロジーのある今、手書きなんて無駄だから必要ない、というもの)。

 

見ているうちに、これまで散々読んできた阿刀田さんの小説やエッセイがうわーっと蘇ってきました。

 

よく、図書館で読んだんです。

 

ちょっとした時間の切れ間や、読書と読書の合い間、学生のときなんかは、授業と授業の合間に図書館に行って、スッと読めるのが阿刀田さんの魅力でした(読書と読書の合間に読書するんかい!というツッコミは無しでお願いします。するんです。デザート的に別腹です)。

 

著作がものすごく多いのですが、買った本はだから、わずかなんです。ごめんなさい、阿刀田さん。

 

しかし確実に、私の血となり肉となっております。ありがとうございます。

 

阿刀田さんの受賞歴などは、こちら。

 

阿刀田高(あとうだ・たかし)

1979年、短編『来訪者』で第32回日本推理作家協会賞。1979年、短編集『ナポレオン狂』で第81回直木賞。1995年、『新トロイア物語』で第29回吉川英治文学賞。2003年、紫綬褒章。2007年より日本ペンクラブ会長。新田次郎文学賞、直木賞、小説すばる新人賞など多くの賞の選考委員を務められています。

 

 

国立国会図書館にお勤めだったんです。

 

もうそれが、憧れで。

絶対、司書の資格を取ろうと思いました。

そんで国立国会図書館に勤めたいと思いました。笑

 

結局、司書の資格は取ったものの司書として勤めることはなかったし、国立国会図書館なんてとんでもない話でしたけど。

 

印象に残っている本を数え上げればキリがないですし、「待てば海路の日和あり」なんて言葉は阿刀田さんの本で知ったんですし、もうどうしましょう、何をどうピックアップすればいいかしらと思ったのですが、結局引っ越しを重ねてもずっと手放せなかったのがこれ。

 

www.kadokawa.co.jp

 

引用は角川文庫で発売日が2001年になってますが、初版は読売新聞社で1998年です。

 

これは衝撃でした。

 

何が衝撃だったか、と申しますと「ミステリーの秘密」が余すところなく解体されて、これを読んだだけで何冊もミステリーを味わったかのような満足感が得られたからです。

 

これを読んだら、もうミステリーの誕生と歴史、そして有名なトリックはあなたのもの。

 

そしてまた、小説家としての心得も、あなたのもの。

 

ミステリーというのは、肝心なことを説明せずにその魅力を伝えるのは、本当に困難だと思うのです。エッセイで、ここまでミステリーを解説できるなんてすごすぎる!と思いました。ネタバレも、ちょっとはあります。でもだからといって「ああもう、読む気が失せちゃった!」なんてことにはならず、むしろ「ううう、どんな話なんだろう。読みたい」と思わせてしまう、エッセイテクニックが満載です。

 

さすがに少々話題が古いですし、今の若い人にはちょっと見当がつかない作品も多く出てきますが、この本から読書の幅が広がることは間違いありません。

 

そう言えば、この本を読んで「ロアルド・ダール」を読んだりしました。

 

「モルグ街の殺人」ってこんなに魅力的な書き出しだったんだっけ?と驚きました。

 

さすが、元国立国会図書館職員。レファレンスの妙技が冴えわたっています。紹介される本、映画、それらのどの物語も面白そうに、魅惑的に誘ってきます。

 

しかし少々薬が効きすぎて逆効果だったのは、これを読んでから、あまりミステリーを読まなくなってしまったことです。嫌いなわけではないのですが、とにかくまあ殺人ありき、ということに食傷気味になってしまったのと、気がつくとアラを探している自分がいて、没頭できなくなってしまったのです。

 

どちらかというと元来ファンタジー好きなせいもあるかもしれませんね。

 

あ!もちろん、この本がアラ探しの本ということはありませんよ!私はエログロ全然OKですけれども、毎度毎度人が殺されるところがスタートなのが、うーん、と思ってしまうだけなんです。ミステリファンの方、ごめんなさいね。この本は、ミステリーの魅力をあますところなく伝えてくださってる素晴らしい伝道本です。念のため。

 

 

ところで、阿刀田さんは言います。

 

小説はみんなミステリーなんだなぁ。

 

大ざっぱに眺めれば、ほとんどの小説にミステリーの要素が含まれている、と私は思う。

 

この本を読んで以来、私は「すべての小説はミステリー」と思って読んでいます。

 

ですのできっと、「私はミステリーを読まない」というのは間違いで、「殺人がないだけで、どんな時もミステリーを読んでる」のだと、思うことにしています。

 

人の心は、深い深い、ミステリーですものね。