こんにちは。
『ばにらさま/山本文緒』を読みました。
2021年9月13日刊。
短編集です。
短編って、難しいと思います。
長編なら、伏線を回収したりする余裕がたっぷりあり、説明や盛り上がるクライマックスシーンをいくつも入れ込むことができますが、短編は短い字数の中に、はじまりと終わりがあり、その中にカタルシスのあるドラマがきっちりと詰め込まれます。
なんとなく、お弁当みたいなイメージ。
この本は、大変美味しいお弁当で、かつ、意外性のあるお弁当でした。
山本文緒さんのことは、私はこれまであまりよく存じ上げませんでした。
私が「少女小説」を読んでいたのは、ちょうどこの、氷室冴子さんや新井素子さんの時代。
山本さんは、この世代の後に一世を風靡した方。
コバルト文庫でコバルト・ノベル大賞の佳作を受賞し、少女小説家としてデビューされています。
その後、1992年ごろに、一般小説に舵を切った、とのこと。
1999年、『恋愛中毒』で第20回吉川英治文学新人賞を受賞。
2001年には『プラナリア』で第124回直木賞を受賞されています。
その後山本さんは、しばらく闘病され、数年で復帰されたものの、長編小説はしばらく書かれていなかったようです。
2021年5月、『自転しながら公転する』で第27回島清恋愛文学賞を受賞。
不死鳥のように見事に返り咲いた、という表現がぴったりの方だなと思います。
その山本さんが、『自転しながら公転する』を執筆しながら書いた短編集が、こちら、『ばにらさま』です。
収められている短編は次の通り。
ばにらさま
わたしは大丈夫
菓子苑
バヨリン心中
20×20
子供おばさん
出版社の書籍紹介ページには山本さんの言葉が掲載されています。
闇と光が反転する快感を味わってください!――山本文緒
どの作品にも「え?!」と驚いて頂けるような仕掛けを用意しましたので、きっと楽しんで頂けると自負しております。
山本さんのおっしゃる通り、どのお話にも途中で「んんん??」とページをバサバサする場所が出てきます。絶妙なタイミングで、白黒がパッと転換するので、思わず前後を確認してしまうのです。そして、つい、上手い!と唸る(笑)。それが面白くて、次々と読んでしまうような「仕掛け絵本」的な魅力があります。
個人的には「わたしは大丈夫」「菓子苑」が特に印象的でした。
どのお話にも共通なのは、
自分のことを、自分が一番わかっていない。
その恐ろしさに気が付くときが、最も怖い瞬間。
と言うことです。
『ばにらさま』の短編に出て来る主人公、およびその主人公と関わる人達はみんなどこか「痛い」人達です。
彼らの中には、その「恐ろしさ」に、気づいている人もいれば、気づかない人もいます。うっすら気づいているけれども無視、あるいは逃避している人もいます。
自分は気づいていないけれど、SNSでまるで「サトラレ」みたいに露呈してしまっていて、人から冷静かつ冷ややかな視線を受けていたりします。
文章のタッチが軽く「おっ?ちょっと変化球があって面白いな」と思いながら、すっと読めてしまう話ばかりなので、もしかしたら年月が経つとあまり心に残らないんじゃないかな、などと思うのですが、これがどっこい。
ふとした時に、思い出すような話ばかり。
どの話にもふわっと違和感があるような、それが心に食い込んでくるような気がします。
崎陽軒のお弁当のあんずみたいな感じです。
『シウマイ弁当』のあんず。
なんではいっているのかな、という違和感がまず、ある。これがたまらなく好きだ、という人もいるけど、私にはよくわからない。よくわからないけど、入ってるから食べてしまう。そしてまあ、美味しい。そこそこ、美味しい。なんなら、またあんずを食べるためにシウマイ弁当を食べてしまいそうな気さえ、する…
そんな読後感でした。