みらっちの読書ブログ

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もしかして鬼殺隊と鬼灯さんは敵対関係なのだろうか【鬼灯の冷徹/江口夏美】

 

【鬼灯(ほおずき)の冷徹/江口夏美】。31巻(完結)。

 

morning.kodansha.co.jp

 

 

 地獄の話です。

 

 表紙の鬼灯さんはもちろん鬼。獄卒を統率する閻魔大王の補佐官です。

この漫画の閻魔大王はおちゃめなおじさまといった雰囲気で、鬼灯さんの上司として毎日亡者の罪を裁いています。閻魔大王が「ちょっと休暇とってどこかにバカンスでも行きたいなぁ」「よその神様は結構、出かけてるんだよ?」なんてつぶやくといきなり鬼灯さんから「よそはよそ!うちはうち!」と怒られます。

 

 補佐官の鬼灯さんは有能で仕事一筋(拷問含む)、まさに冷徹。怖い鬼、鬼神です。長身ですらりとしたクールな美青年の姿ですが、つねに巨大な金棒をかついでいて怪力、とんでもなく強いです。ツッコミもかなりのキレ味。

 趣味は「金魚草」を育て愛でること。

 1巻表紙の三つの角に描かれているものは、茎の上に生きた金魚の花?が咲く、植物と動物の中間みたいなもの、「動植物」だそうです。赤ん坊の悲鳴のような声で鳴きます。鬼灯さんは、キモカワイイものが好きなようです。

 

地獄では、戦後の人口爆発や悪霊の凶暴化により、亡者が溢れかえっています。獄卒たちは恒常的に人材不足に悩まされています。

 

 鬼灯さんは閻魔大王を助けながら八大・八寒地獄全272部署を治めています。地獄って、そんなにしっかり細かく分かれてるんですね!とこの漫画で初めて知りました。地獄の仕組みやどんなところかが、事細かにわかる「地獄辞典」みたいな漫画でもあります。

 

 基本的には読み切りのブラック・コメディです。たまに前編・後編でストーリー展開することもあります。鬼灯さんの子供の頃の話は、結構リアルに可哀そうだったりします。作者の江口さんの絵は、日本画の影響を受けているそうで独特の魅力があります。

 

 鬼灯さんに会うといつも張り合っている中国の神獣・白澤(はくたく)、お伽話としても有名な英雄の桃太郎とそのお供のシロ(犬)、カキスケ(サル)、ルリオ(キジ)、新人獄卒の唐瓜(からうり)・茄子(なすび)などの主要登場人物(?)がいて、ファンタジックではあるのですが、やはりそこは地獄。

 

 例えば動物をいじめたり、いたずらに生き物の命を断つものが落ちる「統括地獄」は、暴力による殺害、虐待などといった殺生関係の地獄群。蚊などの小虫を殺した者も、懺悔しなければ必ずこの地獄に堕ちます。また、生前争いが好きだった者や、反乱で死んだ者もここに落ちると言われています。中に不喜処地獄があり、シロは最初ここで働いていました。獄卒として地獄に落ちたものを襲って食べるのが仕事。

 

 1巻では、桃太郎のところで働いていたシロたちお供の三匹は、桃太郎と一緒に地獄に鬼退治に地獄に来ていました。桃太郎は地獄に過去の栄光を取り戻そうと「鬼退治」に来たのですが、実際のところいわれなく文句をつけて騒いでいるだけのクレーマー扱いで、鬼灯さんにあっさり敗退してしまいます。桃太郎は改心して中国の「桃源郷」で白澤さんの薬局の助手として働くことになり、仕事を失ったお供の三匹は鬼灯さんに雇われました。お供ブラザーズは鬼灯さんのもとで大出世します。「カチカチ山」に登場するウサギの「芥子(からし)さん」は、普段は穏やかで可愛らしいのですが、いったん怒ると「おのれ!狸!」とものすごく怖くなります。狸への恨みはいまだ深い。

 

 基本的に舞台は日本の地獄ですが、各国の地獄、黄泉の国なども登場します。ギリシャ冥界、エジプト冥界、キリスト教の地獄、その他妖怪や神仙なども数多く登場し、古事記の神様たちも。たまには鬼灯さんが現世に出張、なんてこともあります。個人的には鬼灯さんの出張回や、平安時代に井戸を通じて現世とあの世を行き来していたとされている小野篁の回が好きです。

 

 もともとインド仏教に今の日本人が想像するような「地獄」はありませんでした。中国を経由した時に道教の影響を受けて日本に渡来、浄土思想とともに一般にも広まり、平安時代の末法思想後、源信が書いた『往生要集』によって広まったと言われています。道教の流れを汲んだときに官僚制度が加わって上下関係などが生まれたようですが、それにしてもお寺なんかにあるトラウマになりそうな「地獄絵図」などを見るにつけ、地獄の仕組みというのは微に入り細に入り、よくここまで想像できるものだと感心するほどです。

 

 「鬼灯の冷徹」では、本来恐ろしすぎてとても絵や文章に書けないような地獄であっても、「地獄目線」でコミカルに描かれていて、妙に身近に感じられてしまうのが不思議なところ。身近に感じて、だからといって行きたいかと言われると・・・

 

全編にわたり、テンション変わらず最後まで楽しく読めます。

 

※2023年10月1日にサービス終了となった「シミルボン」では、希望者ひとりひとりに投稿記事のデータをくださいました。少しずつ転載していきます。

初回投稿日 2021/3/9  15:08:51