みらっちの読書ブログ

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じわじわを味わいたい人に【映画:愛を読むひと】

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こんにちは。

 

最近観た映画の中で、印象に残っている映画がこれです。

 

【愛を読むひと】。2008年米独合作映画。第81回アカデミー賞5部門ノミネート作品。ケイト・ウィンスレットが 主演女優賞を受賞しています。1995年 に出版されたベルンハルト・シュリンクの小説『朗読者』を、スティーブン・ダルドリー監督が映画化したもの。

 

cinerack.jp

 

じわじわと、理解が深まり、じわじわと、心に沁みる映画です。

 

これはネタバレしてしまってはいけない映画ですが、公式認定の上のサイトのあらすじだと、ちょっと物足りないのです。

 

第二次世界大戦後のドイツ。15歳のマイケル(ダフィット・クロス)は電車の中で気分が悪くなってしまい、車掌をしていた三十路がらみの女性に助けてもらいます。それがケイト・ウィンスレット扮するハンナでした。

 

マイケルはハンナのことが気になり、助けてもらったお礼にと理由をつけて会いに行き、そこで二人は関係を持ちます。マイケルは彼女に夢中になってしまい、勉強もそっちのけでハンナのところに通い詰めるのですが、彼女は決まって、彼に本を読んでとせがみます。彼らはそれだけの関係でしたが、たった一度だけ、ふたりで外で自転車デートをします。少女のようなハンナにマイケルは純粋な愛を感じますが、複雑な気持ちも味わいます。

 

ある日突然、ハンナは姿を消します。理由はあるのです。彼女の行動の理由はいつもただひとつだけでした。マイケルはそれに薄々感づいていますが、消えた理由まではわかりません。

 

何年も経って、司法学生になったマイケルが傍聴した裁判の席に現れたハンナ。彼女は戦時下にアウシュビッツで働いていたことをとがめられ、罪に問われます。

 

マイケルは彼女の証人になることができたのに、そうしませんでした。その罪の意識も手伝い、弁護士になり結婚もして幸せな家庭を築きながら、彼(このころはもうレイフ・ファインズ)は何年もの間、彼女に朗読テープを差し入れし続けます。

 

映画を観ている人が、どの時点で「ハンナの秘密」に気づくのかによっても、このお話の楽しみ方が違ってくるかもしれません。その「秘密」に気づかないうちは、「あらやだまぁ、お子様にそんなことをしてはいけませんことよ……!」といらぬ心配をしてしまうかもしれませんが、いちどそれに気が付いてしまえば、ハンナの行動のすべてに筋が通り、心が震えます。

 

マイケルにとっては初恋であり、初めての女性でもあったハンナ。

彼女との「関係」というのは一種のギブアンドテイクに過ぎませんでした。

少なくともハンナはそう振舞っていました。

秘密を持つがゆえに、何にも心を許さず、弱みを見せることもない。誰かに期待することもないし、諦観のなかで生涯を終えようと思っていたと思います。

 

彼女はとても辛い境遇の女性でした。その彼女を救ってくれたのも本なら、マイケルの愛に本当の意味で気づいたのも本を通してでした。マイケル自身、朗読を続けることは生易しいことではありませんでした。しかし彼は本を読み続けます。ただ贖罪のためだけではなく。

 

 

最後はとてもピュアで純粋な心だけが抽出されます。

なかなか至れない男女の機微、もののあはれの境地。

それがラストシーンのマイケルと彼の娘との会話によって、より際立つのです。

 

映画を観ている間より、見終わってしばらくしてからの方が、ケイト・ウィンスレットの演技が沁みてきます。

 

じわじわ、を、味わいたい人に、ぜひ。