みらっちの読書ブログ

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生きているとはなんなのか【ソードアートオンライン】と【レディ・プレイヤー1】

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こんにちは。

 

コロナ禍で友達と遊べない息子は、オンラインゲームに夢中です。そこにあるのは、世界の共有と会話。ログインして友達と思い切り遊ぶ。リアルで遊ぶのと遜色のない友達関係を築いています。

 

今日はラノベ発アニメ「ソードアート・オンライン」、略して「SAO」のお話です。

 公式】ソードアート・オンライン アーケード ディープ・エクスプローラー (@sao_ac_bnam) | Twitter

 (画像Twitter公式ページからお借りしています)

 

オンラインゲームというのは、ネット上のゲームにアクセスしてログインすれば、アカウントを持つ誰でもが参加することができるゲームです。

 

スマホでするオンラインゲームをスマゲー、PCでするのをネトゲなどと言ったりします。ゲームはさまざまで、シューティングあり、RPG(ロールプレイングゲームあり)、リコエーション(シュミレーション)あり。その「世界(サーバー)」に「ログイン(アカウントを使って入る)」することにより、アバター(自分の分身)を使ってゲームを楽しむことができます。

 

SAO(ソードアートオンライン)川原礫(はわはら・れき)氏が九里史生(くのり・ふみお)名義で書いた2002年のオンライン小説が始まりです。他の作品で電撃小説大賞を取ったことで、2009年に川原礫氏名義で刊行、2017年までに2200万部を売り上げています。

 

世界13ヶ国以上で翻訳され、アニメの視聴回数は累計7億回以上。映像ソフトの売り上げは累計120万本を突破。コンシューマーゲームの売り上げは全世界累計430万本、モバイルゲームは全世界で2500万ダウンロードされているそうです(Wikipediaより)。

 

私はこのSAO、アニメを観ましたが、小説は未読です。

今日はアニメを中心にブログを書きます。ネタバレも含みます。

 

設定は近未来(といっても設定上は2022年で、もうすぐ!)。14歳の桐ケ谷和人(キリガヤカズト)は、キリトという名前で「ソードアート・オンライン」という新しいオンラインゲームにログインします。VRMMO(Virtual reality Massively Multiplayer Online Game)、「仮想現実/大規模/多人数/同時参加型オンラインゲーム(読みやすいようにスラッシュを入れてます)と言われるそのゲームはヴァーチャルを最大限リアルに感じられる画期的なゲームでした。VR装置を頭に装着することで人間の脳波に直接刺激を与え、痛みも味もそこそこ感覚的に感じられます。あたかも現実のような仮想世界を楽しむことができるのです。

 

仮想現実世界のゲームといえば思い出すのは、2018年のスピルバーグ監督の映画『レディ・プレイヤー1』

 ワーナー公式】映画(劇場作品)|レディ・プレイヤー1

こちらもVR装置を使っての仮想現実オンラインゲームの話です。

 

『レディ・プレイヤー1』は構想3年、興行56兆円だそうです。現在レディ・プレイヤー2が202年11月に刊行され、映画化も制作未定とはいえ進行中とのこと。こちらは、いろんなアニメやゲームや映画のオマージュが散りばめられた、オタクによるオタクのための映画と言う感じです。初っ端からデロリアンとかAKIRAのバイクとか出てきて、わーぉ!となります。ガンダム出てくるのをワクワクして待ち、ガンダム出てきた時は興奮。森崎ウィンさんが日本人プレイヤー役を演じているのも見どころです。アニメファンはもちろん、ゲーム好きにも、古い洋楽好きにも、映画好きにも、おー!と言うシーンがあるはず。

 

 

 

川原礫氏と『レディ・プレイヤー』の原作者、アーネスト・クライン氏は、二人とも押井守氏の『アヴァロン』に影響を受けているとか。押井守氏といえば『攻殻機動隊』。私は実写映画の『アヴァロン』はみたことないですが、その共通項になんとなく納得です。

natalie.mu

 

さて、ラノベ・アニメの『ソードアート・オンライン』のお話。

1000人のベータテスト(お試し版)を経て、世界初のVRMMOとして正式サービスが開始されたゲーム「ソードアートオンライン」。普通のゲームだと思ってログインした人々は、最初のログイン広場でSAOの開発者、茅場 晶彦(カヤバアキヒコ)から恐ろしいことを告げられます。

 

このゲームからは自分でログアウトすることができない、ゲーム内の死は本当の肉体の死を意味する。99層にわたる高層エリアをクリアしていき、100層目のラスボスを倒すしか、脱出の方法はない、と。

 

気軽にログインしたのになにやら「ホテルカルフォルニア」みたいな話になってしまい、怒りと恐怖で騒然となった1万人余りの人々に、茅場はいいます。生き残りたければ戦いに勝ち、最上階の自分を倒せと。

 

そこから2年にわたり、仮想世界では壮絶な生き残りゲームが始まります。キリトは孤独なプレイヤーでしたが、着実に強くなり(普通は何回も死んで強くなるので、ここで強くなるのは大変。でもキリトはベータテスターだったのですでに頭の中に攻略本がある状態に近かった)、「黒の剣士」と言う称号を持つほどになります(現実世界の常識で考えるとちょっと恥ずかしい)。ゲーム攻略を目的とした「攻略組」にいたアスナと知り合い、恋に落ちるふたり。ふたりは生き残るためにモンスターやほかのプレイヤーと死闘を繰り広げます。その間2年、肉体はVR装置をつけたまま病院で寝たきり。ほぼ植物状態です。

 

この間ゲーム内で一緒に暮らしていたキリトとアスナの関係に関しても興味深いことはいくつもあるのですが今回は省略します。

 

2年後カヤバアキヒコを倒した二人は生還しますが、死者4000人に及ぶ大惨事テロ事件(現実世界でゲーム機器で脳にダメージを受け亡くなった人が4000人、ということです。冷静に考えると、とんでもない数の死者です)の被害者は、「その後の人生を追跡するための治験者」として扱われることになります。彼らはSAOサバイバーと呼ばれます。しかしキリトはその後もVRMMOをやめることはなく、キリトの妹やSAOのサバイバル仲間とゲームの中に没入していきます。

 

シリーズが進むにつれ、キリトにとってどちらがリアルな人生なのか、どんどんわからなくなっていきます。現実と仮想世界に境界がなくなって、そのうち、彼のヴァーチャル世界での高度で特殊な剣のスキル、VRMMOとの親和性を、現実世界で軍人に利用されることになり、そのことが彼の「本物の肉体の生命」を脅かすことになります。

 

シリーズは第4シーズンまでありますが、その間彼はほぼ植物状態です。暇さえあればゲームの中にいて、肉体はほったらかし。脳内だけで「生きて」いました。そしてゲーム内で成長し、ゲームの中で人生を経験したことで心の傷を受け、立ち直れないほどになります。

 

第2シーズンに、ユウキという女の子が登場します。詳細は書きませんが、彼女は病気で寝たきりの状態であり、すでに限界を迎えている肉体と意識を切り離し「意識だけでヴァーチャル世界の中で生きる」という実験の治験者になっています。ユウキは期限付きで(ゲーム内での死は想定されていなかった)オンラインゲームに参加しているのですが、キリトとアスナはゲーム内で彼女と知り合い、リアルの世界での(病院にいる)彼女とも会うことになります。

 

長々とストーリーを語ってきましたが、実はこのアニメ、ここまで観るのはちょっと忍耐が必要でした。最初のうちは世界観を説明するためか多少冗長で、退屈に感じられるところもありました。シリーズを追うごとに科学的設定が荒唐無稽になっていくし、登場する女の子のサービス露出の多さにも辟易。

 

あーあ、こんなにゲームに没頭していたら現実に戻ってこれなくなるのよね、中毒になって、人間やめますか、ってレベルになっちゃうんだよね。などと思いながら、実は斜に構えてみていたのです。

 

ところがこのユウキ登場あたりから、私の中でSAOの捉え方が変わってきました。

 公式】ソードアート・オンライン インテグラル・ファクター(SAOIF) on Twitter: "□「ユウキバースデー」新スキルレコード紹介  ☆4【夕日差す花園】ユウキ アビリティ 攻撃力が300上昇! また、回避発生時、自身にクリティカル発生率とクリティカルダメージが15%上昇 ...

 (画像Twitter公式ページからお借りしています)

 

病気で肉体の自由がきかない末期の患者さんにとって、この「痛みのない世界への逃避」が果たして悪いといえるのか、と思ってしまったのです。現代医学ではターミナルケアでモルヒネなどを使うのが精一杯です。ユウキはまだ十代の女の子なのですが、普通の人ができることがなにひとつできません。寝たきりなのです。あんまりかわいそすぎてオバチャン久しぶりにアニメ見て泣きました。

 

その彼女がゲームの世界で活き活きと「生きて」、喜びや楽しみを味わえることを、ゲームの中で死を迎えることを、「たかがゲーム」と否定できないし、もしこの先の未来でこれが現実になったら、もしかしたらそこにはある種の「救い」が生まれるのではないか、と思いました。人間の生き方や宗教感を根こそぎ変えかねないすごい発想だな、と思ったのです。肉体的にはほとんど話ができないけれども脳だけは生きているという場合、ゲーム内では自在に動き話すことができるとしたら。本人だけでなく看護している人も、ヴァーチャルの世界で会話することができるのだとしたら。

 

近い未来に、こんな現実がもしかしたらくるかもしれない。それどころかもうすでに「ゲーム」が「ゲーム以上」になってきているのかもしれない。人間の脳に侵食し始めている「ヴァーチャルの世界」。人間が「生きる」ということ、「生きていること」が「脳だけ」になる世界。それはもしかしたら「進化」と呼ばれていくのだろうか、なんて考えてしまいました。肉体から解放され、意識だけで「生きて」いけるのならば、肉体なんかいらない日がくるのかも。ほんとに「人間やめる」話です。

 

ユウキはゲーム内で死を迎えます。彼女の名前はゲーム内の記念碑に刻まれます。この場合、彼女のお墓はどこにあるのでしょうか。現実世界のお墓よりリアルに、ヴァーチャルに存在すると言えるかもしれません。人間の死とは?生きるってなんだろう?と、ものすごく考えさせられます。

 

養老孟司氏が言うように「脳化」して自然を忘れた人間が果たしてどうなるのか、本当にユウキのようにヴァーチャルな世界で生きて死ぬのことができるのか。それどころか「ゲームの世界で生まれて死ぬ」「魂を作り出す」ことさえ示唆していたSAO。

 

こんなに極端なことになると、もしかしたら現実世界では、肉体の逆襲が来るのかもしれない、と思ったりもするのです。自然回帰!肉体回帰!という宗教かなんかが現れて、揺り戻ったりして。

 

実際、『レディ・プレイヤー1』の落とし所は、リアルこそが大事、と言う結末でした。映画全体でもリアル世界の背景がちゃんと描かれていました(SAOでは対照的にリアルの世界はほとんど描かれません)。

 

映画の中のヴァーチャル世界「オアシス」の創業者も「リアルに勝るものはない。リアルは飯がうまい」と言っていました。映画の最期で、どうも創業者がオアシスで生きていると匂わせるようなところもありましたが、あくまでゲームはゲームとしてゲームに帰す、という終わり方。

 

『レディ・プレイヤー1』は身体に装置をつけて動かすことでアバターを動かしますが、SAOはVR装置から直接脳に刺激を与えるので肉体は動きません。SAO初期はご飯は味が大雑把で美味しくなかったようですが、次第にゲーム内で食事しても美味しいと感じるようになってました(その間身体は点滴で栄養摂取しかしてないのですから、よく考えると怖い話)。

 

おそらくSAOとレディ・プレイヤーは設定は似ているけれども、方向性が逆、似て非なるものなんだと思います。

 

レディ・プレイヤーは大きな宇宙のような「オアシス」という宇宙的規模の世界の中にたくさんのゲームが内包されている「枠組み」の世界。SAOは沢山の独立したゲーム世界がシードと呼ばれる共通OSに寄って無限につながっていく「網目」の世界。作者の川原礫氏は謙遜して「世界のスケールが違う」と言っていましたが、これは西洋と東洋の違いとも言えます。とても興味深い違いです。

 

身体と心(脳)がどんどん離れて行った(あるいは逆に究極に同一化した)先には、今の私たちが想像もできない別次元の世界があるのかもしれません。でもそれが果たして人間として「生きている」と言えるのかどうか、現代に生きるわたしたちには想像が難しく、受け入れがたいものさえあります。

 

それを、この「SAO」は軽々と実験してみせてくれます。最終的には「ゲームの中で生まれたヒト(AI)」を「人格を持った人」として「鉄の身体を与え」、リアル世界に受け入れる、というところまでいっちゃってます(『第4期アリシゼーション』。このあたりになると「ついていけない」と思うようになったファンも多いようです)。

 

第4シリーズ「アリシゼーション」では、ゲームの世界で生まれた「人」は、現実世界では小さなひとつの正方形キューブに凝縮された人工知能です。実体としての肉体がないのですが「感覚」を持つために自分が人間であると信じているし、親がいて歴史があり法が存在します。その世界がまがい物だとは思っていません。

 

しかし、その世界に生まれながら「管理者(アドミニストレータ―)」となった人だけは真実を知っていました。教えられたわけではなく「悟った」のですが(このあたりも結構面白いところ)。

 

リアルな世界から来たキリトが「この世界はリアルに肉体をもつ人間たちがつくった世界なんだ!」と言ったときに、彼女はこういいます。

 

 「あなたがたの世界だって、ほかの誰かに作られていないと言えるの?」

公式】SAOアリシゼーション・ブレイディング on Twitter: "#SAOアリブレ祭壇メーカー  たくさんの「置物アイテム」リクエストありがとうございます! \第1弾/ 「ガブリエル」と「アドミニストレータ」の実装が決定! ✨✨まだまだ募集中!✨✨  このツイートに返信してね ...

(👆アドミニストレータ―と呼ばれる管理者。 画像Twitter公式ページからお借りしています)

 

そのとき、キリトは答えられませんでした。私もちょっとびっくりしました。なぜならキリト自身が、私たちの世界が作った小説やアニメという二次元の世界の登場人物なのです。

 

 

入れ子の世界は私たちの世界まで脅かすようにすら思われてきます。

 

とにかく徹底的に「脳化」を追求したアニメ、それが「ソードアートオンライン」。「生きているってなんだろう?」と考えさせられます。子供だましだと思ってたら大間違い。ディストピアであれユートピアであれ、文明や科学が進んだ未来を考えたときに「ありえなくない」、案外怖い話なのです。