みらっちの読書ブログ

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新米母だったあのときの自分に届けたい【感染症とワクチンについて専門家の父に聞いてみた/さーたり】

 

「この本を新米母だったあのころの自分に渡してあげたい」と思います。

 

www.kinokuniya.co.jp

 

正直、妊娠するまでワクチンのことを真剣に考えたことはなく、妊娠時に様々な検査をしたときに初めて意識した気がします。考えてみれば、かつて昭和・平成の時代は「出産するときにこういう病気を防いでいないといけないから、予防につとめよう」、という教育は皆無でした。本来、中学生・高校生には必須な情報だと思います。現在はそういう教育もすすんでいるのでしょうか。妊娠がわかったとき、母から自分の母子手帳をもらい「これはへその緒より大事だ」と思いました。自分がいつ何の予防接種を受けているのか、未接種のものがあるのか、ということは重要な情報です。

 

子供が小さかったころ、ワクチン接種は流れ作業的な「仕事」でした。産後あたふたしているときに先々までのスケジュール表が渡されます。検診のたびにチェックが入り、連絡が来たりかかりつけの病院で打つ定期接種はいいのです。問題は任意接種でした。任意っていうのは国は面倒見ないから親が判断するってことだよね?と、いまいち「任意」の真意がわからず、「はて、ワクチンのことを誰かにきちんと聞いたことがないぞ。これは絶対に打つべきものなのか?打たないという選択肢はありなのか?」と疑問が湧きました。

 

いろんな本を読んで調べたかったけれど、初産で嵐のように過ぎゆく日々の中で何か書物で調べ物をするような余裕などなく、母乳を出している時は特に、信じられないほど頭の中が空っぽになって集中して考えることが難しく、ただただネットを検索するのが関の山。そうすると出るわ出るわ、ワクチンを打ってはいけないとか、こんな害があるとか副反応がヤバイとか。それがデマや嘘なのかも検証できないまま、不安な心はさらに不安にまみれていきました。

 

様々な病院でそれとなく医師に聞いてみましたが、面倒くさい質問であることは間違いなく、軽くキレられたことはあっても丁寧に説明されたことは一度もありません。ワクチンについての考え方も様々なようでした。肯定的な方もいれば否定まではいかなくてもあまり積極的ではない方もいました。お医者さんの側も、時間が限られているし専門外だしということになればやはり「めんどくさい母親キター」になるのは当然です。

 

ポリオなんて「生ワクチン」だからオムツの取り扱い次第では自分もうつるかも、みたいなことを知ったときにはすごく怖いと思いました(この本でもそんな感じのことが書いてあります)。待合室では赤ちゃんたちがよだれベロベロで泣いているのに、接種後お母さんや誰かほかの人にうつしたりしないんだろうか…とか思った記憶があります。

 

そんなすべての疑問に応えてくれるこの本。漫画というのもいい。授乳中でもスッキリ頭に入りそうです。感染症の説明や、ワクチンの仕組み、歴史、さらに各病気ごとにまとめられてコラムで補足。非常にわかりやすいです。またいろいろな研究者、化学者、医師などのトリビア的な豆知識も面白く、北里柴三郎が尊敬するコッホが亡くなったときにコッホ神社を建ててコッホを神として祀ったという話はびっくりしました。

 

著者は外科医さんで、新型コロナウイルスのことがあって子供にワクチンについて問われて、改めてきちんと知りたいしお子さんにも教えてあげたいと思い、感染症専門医である実のお父さんに取材し、この本を上梓されたとのこと。子育てに仕事に忙しくされている最中には「母子手帳に書いているから打つ」としてそれ以上疑問に思わなかった、と述懐されています。専門外とはいえご自身が医師ですし、身近に相談できる人がいる安心感もあったのではと思います。

 

ワクチンには様々な側面があり、副反応もゼロということはありません。メディアの報道如何によってもイメージが形作られ、デマなどもネット上には飛び交っています。そうしたことについて触れている本はこれまで少なかったので、その点にも踏み込んでいるこの本は画期的な本ではないかと思います。

 

日本人のワクチンに対する信頼度は世界最低レベルとのこと。この本では150年前に日本に種痘を広めた楢林宋建さんが「予防医学は報われない」と言った言葉が紹介されていました。今回新型コロナウイルスのワクチンについては連日報道されていますし、ワクチンについて知りたい、と思う人が増えているような気がします。まさにベストなタイミングでの刊行、かもしれません。

 

日本における新米母は多かれ少なかれ、疑問を抱えながらも曖昧なままワクチンを打ってきた、というのが実情だと思います。今後、何か色々聞かれて困るという小児科のお医者さんは「これ読むとわかるよ」とこの本を推薦してはいかがかと思います。新米母の不安も吹き飛びます。正しい知識と正しい理解をもって、初めてきちんと考えられることってあります。今読んでももちろん、大変ありがたい本ですが、返す返すも、あの時、この本が欲しかったです。

 

※2023年10月1日にサービス終了となった「シミルボン」では、希望者ひとりひとりに投稿記事のデータをくださいました。少しずつ転載していきます。

初回投稿日 2021/2/22  23:35:34