みらっちの読書ブログ

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実録と創作どちらも怖い 前編 【慟哭の谷/木村盛武】

こんにちは。

 

突然ですが、この地球上で最強の動物って、なんだと思いますか?

 

ネットで検索したら、

1位 ゾウ

2位 キリン

3位 サイ

という結果でした。意外。ゾウはわかるけど、キリンって。

しかも全部草食動物じゃないですか。

あと、ヒクイドリ、というのもありました。強いんですね。鳥ですけどね。見た目ほぼ恐竜ですからね。

 

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や、やばい…怖い。飼い主を殺す狂暴性があるらしい。ていうか、飼いますか?この鳥。

 

他にも色々な定義においてのランキングがあるのですが、百獣の王と言われるライオンなんかは全然入っていませんでした。サバンナの肉食獣の中では体格はともかくスピードが劣るみたいですし、力なんてゾウやキリンの足元にも及ばない。百獣の王の常日頃の狩の苦労がしのばれます。

 

基本的には、身体の大きさと重さでだいたいの「噛む力」「パンチ力」「キック力」「走る速度」などが推定されての結果らしいです。

 

子供向けの図鑑で「対決」「バトル」「どっちが強い」というのがあります。

style.ehonnavi.net

 

土俵が違うのでリアルで戦うことはないけれど、戦ったら「こっちが強い!」と想像するのは楽しいようです。玉石混交、たくさんの意見が見受けられました。

 

みなさんはどう思われますか?

 

しかしこの日本における陸上最強動物とされているのは、なんといっても

 

羆(ヒグマ)。

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毎年この季節になると、熊出没のニュースはあちこちで聞かれます。秋から冬、冬眠の前ですね。近年、山の動物が人の住むところに降りてくる話が増えています。異常気象や人間の乱獲・伐採などで山に食料が充分にないのでしょう。

 

さて、いつもグッドチョイスな本を教えてくれるNさんが「いやー怖い本読んじゃったよ」と教えてくれたのが、【慟哭の谷】です。

 

ちなみに、ヒグマは英語では「グリズリー」。グリズリーは北に向かい「ホッキョクグマ」になり、身体もさらに大きくなりました。ということで「ホッキョクグマ」はヒグマより強いらしいです。日本の本州の熊は「ツキノワグマ」などの比較的小型のクマが多いですが北海道はデッカイドウ。北海道に生息する熊は「エゾヒグマ」。北海道にのみ生息する亜種のヒグマです。かつてアイヌでは神とされ、イヨマンテの祭りで熊のカムイを神々の国に送り返す儀式をしていました。神とされるものは元来、人間の脅威であり畏怖の対象である動物です。他にフクロウやシャチのカムイを送る儀式もあったようですが、なんといっても有名なのは「熊」の祭りでしょう。

 

※こちらの絵本はフクロウの神様。おすすめ絵本です。

ehonjuku.hondana.jp

 

西洋では「ティディベア」といって熊のぬいぐるみを子供(特に男子)に持たせる風習がありました。現在ではほとんどファンシーグッズになってしまっていますが、もともとは熊の強さにあやかっているのだとか。といっても、強い動物になればなるほど、同種で殺し合いになるまで喧嘩することはないらしいですね。同種を殺すのは子持ちのメスを狙ったときの「子殺し」くらいで、それは猫でもします。自然界は『くまのプーさん』のようなファンタジーやメルヘンの世界ではないんですよね。

 

さて本題の『慟哭の谷』ですが、「北海道三毛別・史上最悪のヒグマ襲撃事件」という副題がついています。今からほぼ百年と少し前の大正四年12月9日(まさに今頃の時期!)、奇しくも鬼滅と同じ大正時代に起こった実話です。北海道には貧困に喘ぐ本州の農民、特に地理的にも近い東北からの入植が進み、開拓地が道内の隅々まで広がっていました。北海道苫前村三毛別の奥地六線沢で起こった人食い羆の話を林務官の父から聞いた少年時代の木村さんは、飼い熊や羆に興味を持ちながら育ちました。実際に羆の被害に遭遇した経験もあり、自身も林務官になり、幼い日に聞いた熊害史上世界にも類を見ない「三毛別の人食い羆」事件を書き残さなければという思いが強くなったそうです。事件後四十六年経った昭和三十六年、資料が少ない中、奇跡的な生存者や生き証人がいることがわかり、貴重な証言を集めて、事件発生後五十年後の昭和四十年(1965年)にこの本の前半部「慟哭の苫前三毛別事件」を発表されたそうです。

 

以下のリンクは、Nさんが送ってくれた著者の木村さんのインタビュー。文庫版が出たときの2015年の記事です。木村さんは昨年2019年、99歳で亡くなっています。『慟哭の谷 北海道三毛別・史上最悪のヒグマ襲撃事件』はほかの雑誌などに発表したものを合わせて、2015年に出版されたものです。動物写真家の星野道夫さんが「どうぶつ奇想天外!」のテレビロケ中にロシアのカムチャッカで羆に襲われ亡くなったときのことに言及したエッセイも入っています。

 

books.bunshun.jp

 

本の内容は、食事時、気持ちの弱っている時にはとても気軽に読めない内容です。ちょっとここには書けない。事実に基づいた話であるだけに羆が人間を殺害した現場の描写のグロテスクさもさることながら巨大野生動物に対する本能的な恐怖がひたひた押し寄せてきて、熊、怖い、ヤバイ、としか考えられなくなってきます。実際に熊と遭遇することは、現代社会に生きていると想像しづらいですが、でも現実に、私たちが生きている場所からそう遠くないところに生息している野生動物には違いない。時折、熊に襲われたという報道をニュースで見聞きしますが、それが俄然現実味を帯びて感じられてきます。実際、田舎に住んでいると全く無縁ではないニュースですよね。

 

長くなりました!後編に続く。