みらっちの読書ブログ

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恋愛だけじゃないんです青春は【佐々木倫子】

 

佐々木倫子さんと言えば『動物のお医者さん』『おたんこナース』など数々の大ヒットを飛ばしていらっしゃる人気漫画家さんです。

 

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もう、動物漫画の金字塔なので語るまでもないかと思います。この当時、ハスキー犬を飼うのが流行っていましたね。今はハスキー犬を見るのも珍しくなりましたが、もしかしたら、佐々木さんのご出身地の北海道の方ではもしかしたらまだまだ人気犬種かもしれませんね。もともと北国の犬ですし。

 

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観月ありささん主演でドラマになりました。ドラマの方が主人公のドジ具合が半端なかったので、私は原作のほうが好みでした。

 

綾辻行人さんとのコラボでミステリー漫画も手掛けていらっしゃいます。

 

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初期のこちらも面白かったです。

 

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とはいえ、私が一番好きな作品は、これ。

 

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佐々木倫子さんの作品の中では評価が分かれる作品だと思います。割と最近(2019年)、石原さとみさん主演でドラマ化されました。なんでいまごろ??という気持ちはぬぐえませんでしたが。笑。『仮面ライダーフォーゼ』の福士蒼汰さんも「観」役で出ていました。原作の雰囲気出ていましたが、「内心の声」の表現に「頭上にそれぞれの役者さんの顔が浮かぶ」みたいな作り方で、ちょっとそこだけいまいちだったかな。と思いました。

 

さて、この『Heaven?』の面白さ。あらすじをひと言でいえば「私の、私による、私のためのレストランを作ってみたい」と思う相当自分勝手な漫画家の女性が、漫画賞の賞金を元手に自分好みのレストランを作る騒動とその顛末です。

 

「ロワンディシー(この世の果て)」というフレンチレストランはオーナーの黒須が適当にスカウトしまくって寄せ集めたメンバーで立ち上がります。その名の通り、葬儀場の隣にあるこのレストランは駅からも遠く立地は最悪。ここのスタッフたちも風変りで個性的なメンバーばかり。それでも、彼女にさんざんに振り回されながらも、スタッフたちはなんだかんだでこの店が好きになっていきます。レストランを開くまでのあれこれや、開店してからの様々な出来事を通して、いつのまにか「ロワンディシー」が彼らそれぞれの自分の居場所になっていくのが良かったです。

 

小金を持った女の夢、かもしれません。笑。

 

恋愛には発展しませんが、この物語の語り手である、ホールスタッフの伊賀観(いが・かん)くんは、わがままな母親の影響を強く受ける穏やかな性格のひとりっ子。オーナーの黒須にいいように使われてばかりで、母親も「観がいないと不便」といい、黒須も「伊賀くんがいないとうちの店は終わり」といい、二人が大岡裁きよろしく観くんを取り合うような回もありました。初回と最終回でオーナーにお茶を出しているのは観なので、結局いつまでも黒須のそばに居続けるのはそういうことなのかな、と、今風に言えば「匂わせ」な感じです。

 

佐々木倫子さんは、とにかく絵が写実的で、細かい描写が持ち味です。吹き出しのセリフの外に、レタリックな「内心の声」「外野からの声」が描かれることが多く、それに「ぷっ」と笑ってしまう面白さがあります。

 

また、漫画を描くときに下調べや調査が常に完璧なんだろうな、と思わせる、よーく勉強なさっている入念な感じが漫画に滲み出ています。おかげで『動物のお医者さん』ではまるで北海道大学に入学したかのような、『おたんこナース』ではまるで看護学校を出たかのような、『Heaven?』ではレストランのオープンに一緒に立ち会っているかのような臨場感を感じることができます。それがなにより魅力だと思います。

 

佐々木倫子さんの漫画のもうひとつの魅力は、恋愛に重きが置かれていないことです。友達や仲間との絆、といってもそれも割と淡泊な、どちらかというと「淡水の交わり」ではあるのですが、互いに信頼している関係が伝わってくる、そういう「同じ場所で頑張っている人」を描くのがとても上手だと思います。何年か経っても集まって飲み会でもしてるんだろうな、と思わせるような「仲間」の描き方が、友情・努力・勝利のセオリーやベタベタの恋愛漫画や小説に疲れた心を癒してくれます。

 

今現在の佐々木さんは連載などはなさっていないようです。もともとプライベートなことを公にしない漫画家さんのようですね。今後の作品があるのであればぜひぜひ読みたい!大変期待して待っております。

最後に、きっと佐々木さんの影響を強く受けていらっしゃるんじゃないかな、と思われる漫画をひとつ。

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絹田村子さん、たぶんさんざん、佐々木倫子さんに作風が似ている、と言われ続けている様子で、佐々木さんの影響を受けた、とご本人が明言していないのにここで持ち出すのはもしかして失礼なのかもしれませんが、確かによく似ています。そしてこの方もまた、ものすごく勉強家なのがわかります。この『数字であそぼ』もとても面白いです、佐々木倫子さんが好きな方はきっと好き。それだけは確かです。

 

2023年追記:『数字であそぼ』はすっかりハマって現在絶賛連載中。10巻まで既刊です。10巻まで単行本買ってしまいました。おススメなのは「吉田大学」=「京大」なのですが、大学の学部やカリキュラムの取り方、院に行くまでの過程などがリアルなので、京大で数学科に進んだらこんな現実が!ということを知りたい人には(たぶん)役に立つし、漠然と「大学ってどんなとこ」と思っている高校生にもよろしいかと。ただ、「こんな奇妙なひとたちばっかりなのか、やばい」と思ってしまう可能性もなきにしもあらず――フィクションですから、だいじょうぶ。だいじょうぶ?

 

※2023年10月1日にサービス終了となった「シミルボン」では、希望者ひとりひとりに投稿記事のデータをくださいました。少しずつ転載していきます。

初回投稿日 2021/1/23  13:46:49