みらっちの読書ブログ

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芸術家の魂は【お題:「爆発」/ドカンと一発】

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今週のお題「爆発」

 

「爆発」と言えば、もう、これしかありません。

 

岡本太郎さん

 

若い方はどの世代の方までリアルにご存知なのでしょうか。

 

岡本太郎さんがTVCMに出演されていたのを見て育ちました。

岡本太郎さんと言えば「大阪万博」の太陽の塔の人。

「大阪万博」のときは一応生まれてはいましたが幼児だったので、記憶にはありません。中学の美術の教科書などには載っていたように思います。

 

すごい芸術家なんだ、と知ったのはずっと後のことでした。

 

バラエティー番組で「芸術は、爆発だ!」と叫んでいた岡本さんを、変ったおじさんだなぁ、ほんとに「芸術家」なのかな?と思って見ていました(当時、小学生か中学生)。「芸術は、爆発だ!」は1981年のMaxellのビデオテープのCMのコピーで、当時の流行語大賞にもなりました。

 

「芸術は爆発だ!」と言うたびに爆笑するスタジオの様子は、なんだか子供心に奇妙でした。そして、岡本さんは確かに面白い変なおじさんなのですが、見ているとワイワイ囃し立てる周りの芸能人が馬鹿みたいに思えてくるのが不思議でなりませんでした。でもこういうバラエティで片岡鶴太郎氏は岡本氏から評価され、画家の道を目指したようですね。

 

つくづく、テレビって怖い、と思います。

印象操作された氏のイメージが覆るまで、私は時間がかかりました。

当の岡本太郎氏は世間のことなどどこ吹く風だったようですが。

 

久々に、こちらを読み返してみました。

www.kinokuniya.co.jp

 

1911年(明治44年)生まれ、1996年(平成8年)没。享年84歳。

作家岡本かの子と漫画家岡本一平のひとり息子。トットちゃんもびっくり小学校は1年生で自分都合(つまりやめた)で4度転校。18歳で渡仏、パリでサルトル前の実存主義哲学に触れています。第二次世界大戦直前に帰国、従軍もしているようです。縄文式土器に芸術性を見出したのは岡本氏で、それ以後、日本美術史に縄文土器が加わったとか。

 

亡くなった後、『ほぼ日』糸井重里氏の主催する『ほぼ日刊新聞』)で氏の養女であり長年の秘書だった岡本敏子さんとの対話や、『明日の神話』が、メキシコから渋谷のマークシティに移送され展示されることになった顛末を読みました。今もアーカイブで読めるかもしれません。

 

『明日の神話』は、渋谷のアレです。

存在感抜群の、あの絵です。

毎日通勤通学で観ている方も多いかもしれません。

 

敏子さんは、遺産相続のため養女になりましたが、結婚しなかった岡本氏の事実上の奥様です。公私ともに、氏を支えました。ときにはほかに恋人もいらしたようで、さすがの巨匠です。

 

敏子さんが亡くなる前に上梓した小説『奇跡』は、小説という形式ながらふたりのことが赤裸々に描かれていると話題になりました(なかなか機会がなく私は未読です)。

www.kinokuniya.co.jp

なにより、生前の『ほぼ日』のインタビューが印象的でした。

こんなに人を愛せるのかな、と思いました。岡本氏への愛が溢れていて、とにかく命のすべてをかけている感じが伝わってきて、これも「爆発だ」と思いました。インタビューを受けている時点での敏子さんの年齢(たぶん77歳くらい)を忘れる情熱で、死後も一緒にいると言って憚らないピュアな愛。インタビュアーの糸井氏もたじたじになっていました。

 

前述の岡本氏の著作にも出てきますが、とにかく純粋。岡本氏の純粋さを、敏子さんの純粋さで受け止めたら、それは「爆発」だわ、と思います。岡本氏の死後、彼の芸術家としての評価を高めたのは敏子さんだと言われています。

 

さて、元々メキシコオリンピックに向けて建設される予定のホテルのために製作されていた『明日の神話』。下絵原画は何点かあり、さまざま場所に所蔵されていますが、メキシコで制作していた作品は、ホテルの建設中止以後、行方不明になっていました。氏の死後それを探し回った敏子さんがようやくメキシコでホテルの資材置き場で見つけ、それを渋谷のマークシティに移送したという顛末です。なんでもミリ単位の誤差しかなくてほぼぴったりあの場所に収まったとか。

 

原爆、第五福竜丸の事故がテーマです。

 

私は滅多に渋谷にいかないのですが、あの絵の前を通るときは、妙に重苦しい気持ちになります。

 

オリンピックと言う「平和の祭典」と言う催しに向け、岡本氏が投げかけたメッセージです。

 

『自分の中に毒を持て』を読むと、とにかくすべてにおいて「アンチ」であろうとする岡本氏の闘いが独白されています。常識や既存の概念を常に疑う。そしてひたすら自分自身と闘おうとします。己の敵は己。その確固たる信念に圧倒されます。

 

幼いころから両親にひとりの人間として扱われ、母親のかの子は自分の執筆活動が優先で、太郎を柱に括り付けて泣こうが喚こうが振り向きもしなかったと言います。少し大きくなると、愚痴でも社会問題でも大人に話すように話をしたと言い、十歳くらいになると親子3人、というよりは大人3人でディスカッションする家庭だったようです。岡本氏は『一平かの子 心に生きる凄い父母』という本を書いていますが、こちらはもう古本でしか手に入らないようです。

 

柱に括り付けられた太郎は、それでも母親の背中に「自分を燃やそうとする情熱」を見たことを記憶しているらしい…

 

だいたい、渡仏の理由もすごかった。父親の海外取材に同行する息子と妻(かの子)とその愛人。なんだか『コックと泥棒、その妻と愛人』のタイトルみたいになってますが、事実です。息子はそのままパリに滞在し、大学に通い、ピカソの絵に衝撃を受け、芸術家の道へ。

全身全霊が宇宙に向かって無条件にパーッとひらくこと。それが「爆発」だ。人生は本来、瞬間瞬間に、無償、無目的に爆発しつづけるべきだ。いのちの本当の在り方だ。(岡本太郎「自分の中に毒を持て」<新装版>青春出版社kindle版より)

 

本を読んでいたら、なんとなく「King Gnu」の「飛行艇」の歌詞を思い出しました。

 

大雨降らせ/大地を揺らせ/過去を祝え/明日を担え/命揺らせ/命揺らせ

「King Gnu」「飛行艇」より

 

岡本氏の本にも、芸術というのは、祝祭であり、呪術、と書いてありました。どこかプリミティブ(原始的・根源的)なところに根差しているのが、芸術というものなのかもしれません。

 

うーん、やっぱり芸術は爆発なんだな~