みらっちの読書ブログ

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役者の狂気と執念に酔う【化け者心中/蝉谷めぐ実】

こんにちは。

 

ついつい夢中になってしまう本を久しぶりに読みました。

『化け者心中』は蝉谷さんのデビュー作だそうです。小説野生時代新人賞を受賞しています。

化け者心中

 

ちょっと熊とか鬼とかコワイモノがヒトをおそう話が続いてしまってすみません。わざとじゃないんですよ。笑。

 

デビュー作にはその作者さんのすべてが出る、と言ったのは誰だったでしょうか。確かにデビュー作というのは作家さんにとっても読者にとっても特別な気がしますが、デビュー作でこれほど心を掴まれたのは、藤原伊織さんの『ダックスフントのワープ』酒見賢一さんの『後宮小説』を読んだとき以来です(藤原伊織さんと酒見賢一さんについてはいずれブログを書く予定です)、たぶん。

 

書評でも「新人とは思えない!」という評が多数。

 

ファンタジーでもあり、ミステリーでもあり、ホラーでもあり、時代小説でもあり。相当に濃いものが詰まっている小説です。蝉谷さんは大学時代、江戸時代化政期の文学を研究されていたそうで、これでもかと当時のエッセンスが詰め込まれています。タイムスリップでもしてみてきたか、私たちが連れていかれたかのような臨場感です。

 

芝居小屋で起こったひとつの事件。女形(おやま)として人気絶頂期に、とあるできごとですでに役者を退いた「白魚屋魚之介(しらうおやととのすけ)」を、座元が小屋に呼び寄せます。そこには台本を読みに集まった六人の役者たち。座元は魚之介に「この中に人に成り代わった鬼がいる、それを探してほしい」という依頼をします。「とあるできごと」のせいで魚之介はひとりでは歩けない身体です。鳥を買っては苛めていた魚之介を真正面から咎めた「鳥屋」を営む藤九郎(ふじくろう)は、それが縁で魚之介に気に入られ、この事件にも巻き込まれることになります。魚之介を背負って事件解決に奔走する藤九郎。役者ひとりひとりの闇を暴いていき、そして。

 

と、今回は出たばかりの新刊ですし、さすがにこれ以上ネタバレできません。これまでは絶版だとか古い本とかばかりで結構普通にネタバレしてましたが、これは実際に読んで味わってほしいと思います。とにかくミステリー好きにも、時代小説好きにも、ファンタジー好きにも満足できる一冊だと思います。ちょっとだけ宮部みゆきさんの雰囲気もあるかな。宮部みゆきさんと京極夏彦さんを足して二で割った感じもそこはかとなくあるかな。単に共通点は「化けもの」を扱ってるというところだけかもしれませんが。

 

ぐいぐい惹きこまれる独特な文体で、江戸ことば、廓ことばに加えて、関西出身の作家さんで関西ことばも完璧。セリフ回しがとにかく魅力的です。ともかく、文章中、猫が「ねうねう」鳴きますからね。そうそう。江戸時代って猫は「ねうねう」鳴くんですよね。

 

主人公の事情で本来なら「安楽椅子探偵」ものになるところを、相棒のおかげで自ら出かけていくことができる設定もいいです。主人公ふたりもそれぞれ魅力的。舞台小屋と役者という設定も秀逸で、江戸の粋もこれでもかと書き込まれ、読み始めたら止まらないこと請け合いです。とはいえただの「時代小説」「ミステリー」ではありません。感覚的に非常にモダン。現代的なテーマが絶妙に落とし込まれていて、飽きさせません。

 

たぶんシリーズ化してしまうんだろうな、と思います。気配は相当に濃厚です。してしまうんだろう、なんてあまり歓迎していないような言い方をしてしまいましたが、シリーズ化するのがいい場合と、シリーズ化しないほうが良い場合があるので、それはもう、次回作で決まる感じがします。この世界観を壊してほしくないような、また別の主人公の別の話を読んでみたいような。次の作品が読みたい、と思うのも、とっても久しぶりです。

 

文章の中の色彩がとても豊かで、絵画的です。江戸時代の風俗が細かく描かれているし、ヴィジュアルに優れた描写で、映像向き。でも映画化するのはちょっと難しそうです。いろんな大人の事情が絡みそう。表紙の絵も雰囲気にぴったりあっていますが、読んでいると自然に浮世絵が思い浮かびます。舞台が芝居小屋ということもあり役者絵はこんなだろうかと想像したり。歌川国芳っぽい絵が似合いそう。猫が出てくるからですかね。

 

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お話の中には春画も出てきます。ここでは割愛させてもらいますが。笑。

内容の好き嫌いはわかれるところかと思いますが、ともかく久しぶりに、リアルタイムでのオススメ本です(2020年10月初版)。