みらっちの読書ブログ

本や映画、音楽の話を心のおもむくままに。

友だち追加

氷室冴子さん、また会えましたね【さようならアルルカン/白い少女たち 氷室冴子】

 

ブログで少女小説を取り上げたときに、「コバルト文庫で当時は新井素子さんに夢中だったのだが、今思い出すのは氷室冴子さんだ」ということを書いたことがあります。

 

するとその直後、友人から「氷室冴子さんの新刊本が出るらしいよ」ということを聞きました。氷室さんすでに亡くなっているのに新刊?と思ったのですが、本当に昨年秋に新刊本が出ていました。初期作品の短編を集めたもので大好きだった『さようならアルルカン』が入っているとのこと。偶然に驚きつつすぐに注文しました。あれやこれやですぐには読めずにいたのですが、ごく最近、ようやく読むことができました。

 

cobalt.shueisha.co.jp

 

氷室さんは2008年、肺がんで51歳の若さで亡くなられています。
訃報を知ったときは衝撃を受け、『なんて素敵にジャパネスク』を全巻読み直してしまいました。

 

氷室冴子さんはライトノベルの草分けとも言われています。ライトというだけに軽く会話文の多い小説が多い中、氷室さんの本はちょっと別格だったと思います。もちろん、いわゆる「ラノベ」特有の文体ではあるかもしれませんが、少女期の繊細な内面を描かせたら天下一品だったのではないかと思います。

 

今回も「ラノベ」に分類しようか「小説」に分類しようかとちらと迷いましたが、小説に分類させていただきました。

 

今回の短編集に収録されたものでは、表題の「さようならアルルカン」と「白い少女たち」しか読んだことがありませんでした。新鮮な気持ちで読みましたが、やはり久しぶりに読んだ『さようならアルルカン』。ああ、氷室さん、また会えましたね、という感じでした。

 

「家電」か「手紙」という手段でしか思いを伝えられなかった時代に、自分自身の憧れを投影する友人と、互いにアンバランスに成長していく心と心のつながりを育む瑞々しい小説だったんだな、と再認識。「図書カード」の存在はひとつのキーになるのですが、今の若い人は「図書カード」って知っているのでしょうか。

 

そう言えばこちらもかなり昔の曲になりますが、松任谷由実さんの曲に『冬の終わり』という曲があります。大好きな曲なのですが、この曲を初めて聞いたとき、『さようならアルルカン』を思いだしました。すれ違った気持ちのまま卒業してしまったけれど、憧れていた彼女のことは今も思い出す、という女の子同士の友情を歌った素敵な曲です。

 

『白い少女たち』は当時としても少しセンセーショナルな内容を含んだものだったのですが、今再読してみると「女の子が生きる物語」の普遍性を感じました。当時よりもずっと生きやすくなった部分と、まだまだ、旧態依然なところが炙り出しのように出て来る感じです。氷室さんは北海道出身でこの物語も北海道が舞台ですが、ミッション系私立女子高の寄宿舎が舞台の、名前だけで一度も登場しない女の子のことをめぐる群像劇です。

 

他の短編は、当時の風俗に古さを感じることも多かったのですが、この2編はいろいろな感情を呼び起こされ、改めて名作だな、と感じます。今のラノベとは一味違った味わいの「少女小説」です。

 

 

※2023年10月1日にサービス終了となった「シミルボン」では、希望者ひとりひとりに投稿記事のデータをくださいました。少しずつ転載していきます。

初回投稿日 2021/1/19  16:41:25