みらっちの読書ブログ

本や映画、音楽の話を心のおもむくままに。

友だち追加

鬼コーチとか鬼監督とか最近聞かないけどこちらの鬼はパワハラどころではない【鬼滅の刃/吾峠呼世晴】

こんにちは。

 

鬼滅の刃、社会現象とまで言われて映画興行がすごいことになっていますね。

このご時世に、映画館では連日超満員の動員だそうです。映画関係の方々にはまさに救世主たる鬼滅の刃

 全部覚えた?『鬼滅の刃』呼吸一覧、すべての型(技)をまとめて紹介 - #ホビヲログ

 

私は、アニメで観ました。読もうと思ったとき、漫画はちょうど売り切れ続出の時で、最新刊はおひとり様1冊までの限定販売。しかも息子受験の真っ最中だったので、電子書籍大人買いするか、それとも落ち着いたころに単行本を買うか、と思っているうちにアニメを観ることがでました。

 

昔、『バフィー 〜恋する十字架〜』というアメリカのドラマがあって、原題が『 Buffy the Vampire Slayer』というのですが、【鬼滅の刃】って英語のタイトル『DAEMON SLAYER』っていうんですね。なんだか懐かしくバフィーを思い出してしまいました。バフィ―の元カレのエンジェルが好きでした。スレイヤーとヴァンパイヤ、結ばれない運命の二人。あ。どうでもいい話を先にしてしまった。

 

アニメ、良かったです。

初回を見たとき、背景の、特に田舎の風景が綺麗で感動しました。

毎週放送のアニメは、背景が手薄なことも多々、あるので、初回の背景が綺麗だと期待して観ます。制作側の力の入れようが違う気がするので。

 

声優さんたちも良かったです。

富岡義勇役の櫻井孝宏さんは私的に大注目の声優さんで、オーディブル宮沢賢治の『やまなし』を聴いたときは衝撃を受けました。『やまなし』ってこんなふうに読めるんだ~、こんなふうに読んだら、小学生全員、『やまなし』をきっぱり理解できる!わけわかんないクラムボンに振り回されないですむ!と思いました。

 

伊之助役の松岡禎丞(まつおかよしつぐ)さんは今現在我が家で一大ブームになっていて、Re:ゼロから始める異世界生活』のペテルギウス・ロマネコンティ、『ソード・アート・オンライン』のキリト、そして鬼滅での嘴平伊之助と、その多彩な声の魅力に感服しています。

 

そして鬼の惣領、鬼舞辻無惨は関俊彦さん仮面ライダー電王』のモモタロスでした。若干の鬼つながり…

 

お話は皆さんすでにご存じかと思いますが、いちおう、あらすじを。

時は大正時代。少年、竈門炭治郎は父亡き後炭焼きをして家族を支える大黒柱。ある日山から戻ると、里の家族は鬼に襲われていて、唯一残った妹の禰豆子も鬼になってしまいます。禰豆子に襲われた炭治郎は鬼殺隊富岡義勇に助けられますが、富岡は禰豆子を殺そうとします。富岡は炭治郎と禰豆子の間の兄妹の情に気づいて攻撃をやめ、禰豆子は殺されませんでしたが、炭治郎と禰豆子は路頭に迷い、さらに鬼である禰豆子を隠して生きていかなければならなくなります。なんとか禰豆子を人間に戻そうとする炭治郎は、富岡の導きで富岡を育てた鱗滝のところに身を寄せ、そこで鱗滝に剣術を習い修業します。炭治郎は鬼殺隊に入隊し、禰豆子を人間に戻す方法を探して鬼を狩ることになります。炭治郎は禰豆子を人間に戻せるのか!はたしていかに!

 

なんかね、自分にはそういった記憶はないのだけれど、『紙芝居屋さん』がいたころの紙芝居みたいだな、と思うんですよ。子供たちが前にずらっと並んでいて、アメとか買って活劇を見る。そんな感じ。

 

そこに溢れるのは、剣術修業と人情と「正義は勝つ」。

ついでに言えば、ジャンプの「友情、努力、勝利」ど真ん中です。

 

とにかく炭治郎が……!炭治郎が、いい子なんです!

超いい子。すごいいいひと。もうヒーローの王道中の王道。

これは結構、近年になかったことです。

正義を愛し、真面目で、真剣に物事に取り組み、妹のために自分の弱さを克服し強大な敵に懸命に立ち向かおうとする少年。

非の打ちどころがありません。

 

これがあーた、もし「恋人のために」だったら、ケンシロウですよ。

なんかちょっと、紙芝居じゃなくなっちゃいます。(北斗の拳の紙芝居も、面白いだろうけど)。やっぱりセクシャルな部分完全排除であればこそ、老若男女が「わー」ってなれる。「妹のために」。これが少年物の鉄則です(まれに、姉、母のためもある)。

 

そして禰豆子が……!禰豆子がけなげなんです!

兄や家族、周囲を思いやる気持ちや、絶対に人間を襲わない!と竹をくわえた意志の強さにはおばちゃんでも泣けてきます。

しかも、人間が鬼の力をもつとこれが強いわけです。

禰豆子の蹴り!

ヒーローの必殺技はケリなんだよ!と『炎炎の消防隊』でも言ってました。剣じゃない戦いなら最終的には蹴りがケリなのです。『仮面ライダー』もラスボスを倒すときの必殺技は必ず、ライダーキックです。

禰豆子はヒロインですけれども、ここでも王道なんですよね。

「けんか」→「友情」ならば、肉弾戦の末、拳と拳がすれ違いお互いの顔に。

というのが基本形ですが、それ以外で「必殺」は蹴りが常道です。

あ、仕事人以外。

 

 

そもそも大正時代という時代設定が秀逸です。活劇全盛の昭和の戦前戦後に子供だった人も、平成のビジネスパーソンも、同じような「自分の経験していない」ファンタジックなノスタルジーを感じることができると思います。子供はノスタルジーはなくてもすべてが新鮮。

 

そして和洋折衷感が半端ないです。

この物語の鬼はいわゆる「ヴァンパイヤ(吸血鬼)」的な特性(日光を嫌う、血により仲間を増やす、など)を備え、映画『X-men』的な部分もあって、西洋のゴシックホラーとアメコミのヒーローみたいなものが、日本のおどろおどろしい「あやかし」「鬼」にミックスされた感じです。最初は「ただのヴァンパイヤものかな」と思っていた私もいつのまにか「うう。これは」と惹きこまれていく絶妙設定。鬼舞辻の殺害シーンはまさに無残で無慈悲、残酷この上ないのですが、そこまでグロテスクかというと、近年のアニメにしては割と控えめ。でも怖い。日本独特の怖さです。スリラーというより怪談に近い怖さ。

 

鬼については、語り始めるとまた長くなるので、今回は割愛。

とりあえず【鬼滅の刃】の鬼は西洋感の強い鬼とだけ言っておきたいと思います。

 

いっぽう剣術は「木火土金水」のエレメント属性を取り込んでいて、現代のファンタジーゲームに慣れた子供たちをも飽きさせません。そして「呼吸」がそのスイッチであるという設定がまた素晴らしいです。炭治郎は四六時中「全集中の呼吸」をする修業をしますが、あらゆる「アーツ(技巧、技)」は呼吸に通じます。ヨーガの基本ですし、中国香港映画の功夫の修行はまず呼吸から入るのが鉄則。ここでも王道が新鮮、のパターン。それになにより、

 

必殺技を繰り出すときの「水の呼吸、一の型」って、絶対言ってみたくなりますもん!

 

決めゼリフも完璧です。

 

ちなみに、炭治郎自身がもつ特性って名前からしても代々「日(火)」のエレメントだったと思うのですが(ヒノカミ神楽を継承していますし、耳飾りもしています)。でも富岡さんに出会って鱗滝さんに師事したことで「水」の技を得る、というのがとても面白いなと思います。かつて「日の呼吸の使い手」によって鬼舞辻が瀕死に追いやられ、その後「日」を集中的に狙うようになったために継承できなくなっていたにしても、煉獄さんの「炎」に師事してもよかったかもしれないのに、なぜか「水」。そして炭治郎は水の技が似合う。むしろ反対の性質を身に着けることで、鬼舞辻の目を逸らし、彼を滅亡に追い込むことができたんじゃないか、なんて想像してしまいます。各柱の日輪刀の色がそれぞれ呼吸によって違うというのも示唆的でとても面白かったなと思います。

 

物語と設定が絶妙に絡み合って、ぐいぐい惹きこまれていく鬼滅の刃

 

さてそんな中で、鬼滅の刃で最も重要なキャラクターは誰かと申しますと、我妻善逸だと思うのです。

 

善逸は炭治郎と旅の途中で会い、逃げてばっかりいたのにどういうわけか(笑)鬼殺隊に入り、炭治郎と友情をはぐくむ剣士なのですが、修業が嫌で逃げ出したり、言い訳して怠けたり、戦闘中に恐怖で気絶するヘタレキャラで有名です。鬼滅の人気の秘密は、善逸にあるといっても過言ではない、と私は思います。

 

善逸は、たったひとつしか必殺技をつかえません。しかも自分が眠っている、意識を失っているときにしか行使できない、自分が「知らない」技です。それが必中必殺のすごい技なんですが、自覚がない。ジョハリの窓」みたいな技。(注:ジョハリの窓とは自己分析に用いる心理学用語。他者とのコミュニケーションにおいて自分が表現している自分の姿を知るためのモデルです。① 自分も他人も知っている自分の性質(解放)② 自分は気付いていないが他人は知っている性質(盲点)③ 他人は知らないが自分は知っている性質(秘密)④ 自分も他人も知らない性質(未知)に分類されます)。

 

善逸は、自分の臆病さ、狡猾さ、卑怯さ、怠惰を知っています。だからものすごく自己評価が低い。そして読者は、この物語に欠けていて人間には絶対にあり、わかっているけれどなかなか克服できない「弱さ」「普通さ」を彼に投影できます。読者は自分を肯定し、感情移入することができるので安心します。

 

伊之助は猪に育てられ美貌を嫌い顔を隠すためにイノシシの頭をかぶっているくらいだからまあ、普通じゃありません。伊之助はいいやつですが、彼は濃すぎるキャラ設定が物語に華を添えるものの、なかなか感情移入はできないし、主人公の炭治郎にしても、あまりに「いいひと」で「まっすぐ」なため、こちらは感情移入というよりは「理想」を担う感じになります。

 

それに対して善逸は、なんでいるの?強くもないのに。卑怯なのに。弱いのに。と思うけれども、彼がいないと最終的には物語として何かが「欠けて」しまうのです。この漫画の素敵なところは、そんな彼も最強の技の使い手である、というメッセージがある点です。善逸の盲点を、読者や視聴者は知っているわけです。ほんとうはすごい子なんだよ、きみは!と思う。

 

普通。普通こそが、素晴らしいことなんです。

そしてそんな普通な自分の「知らない自分」が、誰かの役に立つかもしれない。

この漫画は「盲点」や「未知」に目を向けさせてくれるように思います。

 それを再確認できる善逸くんが、この鬼滅の刃を支えている要なんじゃないかな、と思うのです。

 

あ。でも何と言っても鬼滅の刃最大の驚きは、作者の吾峠 呼世晴(ごとうげ こよはる)さんが女性だったと知ったこととと、『銀魂』ファンだと明言していることです。うん。やっぱり『銀魂』はいいよね。

 

確かに今公開中の映画、観たくなりますね~

でも、すっかり出不精になっちゃったので、配信されるようになってから家で観ます(ごめんなさい)。