みらっちの読書ブログ

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ドラマティックな四人の人生【若草物語/ルイーザ・メイ・オルコット】

こんにちは。

 

年末年始のお休みで、結構下書きも溜まったので、うーんどれを出そうかなと悩んだのですが、子供の頃に好きだったシリーズをしばらく出してなかったので、今回はこちら、『若草物語』。『赤毛のアン』の物語と同様に続編がいくつも書かれている名作中の名作です。1868年、日本で言えば明治時代に発表された作品です。

 

シリーズの第一作目、『リトル・ウィメン』=『若草物語』は、様々な演劇、映画、ドラマ、ミュージカル、アニメなどになっており、長きに渡って愛されている物語です。1949年(昭和24年)に公開された『若草物語』は見たことがありませんが、エリザベス・テイラーの出世作とか。私は確かウィノラ・ライダーの『若草物語』(1994年)を見たことがあったような気がします。記憶が曖昧ですが。新しいところでは2019年の映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』があります。ハリー・ポッターのハーマイオニーを演じたエマ・ワトソンや、メリル・ストリープが出ているようです。四部作を時系列入り乱れる形でひとつの作品にしたそうですが、私はまだこちらを観ていないので、機会があればぜひ見たいと思っています。古い時代の『若草物語』と、新しい時代の『若草物語』の姉妹の描かれ方の違いに注目してもおもしろいかもしれません。そもそも、どうして『リトル・ウィメン』が『若草物語』になったのでしょう。調べてもよくわかりませんでした。どなたかご存じの方がいたら教えてください。

 

映画『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』 ……傑作!…… - 一日の王

 

私は以前ご紹介した福音書館の古典童話シリーズで読んだと思います。

とにかく何度かいろいろな訳本、ドラマ、映画、アニメに接しているので、どれと特定するのが難しいほどです。

 

四姉妹の物語、というのはとても魅力的な題材だと思います。

三姉妹、と言うのも多いですけどね。UQのCMは三姉妹設定ですね。三姉妹はとても元型的な組み合わせです。ギリシャ神話などにもよく登場します。ゴルゴーン姉妹や、運命の女神、復讐の女神、時の女神、音楽の女神、セイレーンもみんな三姉妹。それぞれ、役割があります。

 

四姉妹は、姉妹のきょうだい順別による性格の違いも、生き方ももちろん魅力なのですが、私はつい今は廃れつつあるユングのタイプ論を思い浮かべてしまいます。「思考」「感情」「感覚」「直感」の4種類の分類に、「外向」「内向」というものが加わるので最終的には計8つの分類なのですが、四姉妹の物語はこういった人間の考え方や感じ方、性格の違いを表すのにぴったりなのではないかなと。

 

他に四姉妹の物語として印象的なのは、谷崎純一郎の「細雪」、最近では吉田秋生の漫画「海街diary」なんかもありますね。余談ですが、私の祖母は五人姉妹でした。うち二人若くして亡くなっています。その姉妹の話を父から聞くのも好きでした。私の知っているおばあちゃんは、私にとっては完全に最初から「おばあちゃん」なのですが(それはそうだ。笑)、長女として産まれ、少女時代を過ごし、若い時代があり、結婚して年を取り、わたしの祖母になり。すでに亡くなってずいぶん経ちますが、「おばあちゃん」の姉妹のお話が今につながっているのを想像するのは、子供の頃の私にとってわくわくすることでした。女性ばかりの姉妹、しかも三人以上というのは、バラエティに富む組み合わせ。特に四姉妹というのは女性の人生を語るうえでとてもドラマティックな構成だなと常々思っています。

 

さて『若草物語』。あまりに有名な話なので、あらすじはWikipediaから。

 

南北戦争時代、父が黒人奴隷解放のため北軍の従軍牧師として出征し女ばかりとなりながらも、慎ましく暮らす一家の約1年を描く。父の無事と帰還を祈り、優しく堅実な母親に見守られ、時に導かれ、マーチ家の四人姉妹メグ、ジョー、ベス、エイミーは裕福ではなくとも明るく仲睦まじく暮らしている(もっとも、これはこの家族の豊かな時代に比して慎ましいのであって、実際には中流階級の家庭である)。家庭に起こる楽しい出来事や悩み、事件、そして大きな試練が姉妹達を少女から「リトル・ウィメン」へと成長させる。

 

なんか、全然、私の愛する『若草物語』を表現していない!と思ってしまったのは私だけでしょうか。しっかりもので保守的な長女メグ、男勝りで勇気のある次女ジョー、身体が弱いけれど優しくて音楽好きな三女ベス、末っ子で甘えん坊、おしゃまなエイミー。やっぱり読まなきゃ伝わりませんわ。そして素晴らしいお母さま(描写がとにかく母賛美!なのですよ)!

 

私は長女だったので、長女メグの気持ちもわからないではないんですが、やっぱりどうしてもジョーに感情移入してしまいます。ジョーの周りに流されない生き方は、この物語が発表された19世紀後半にはとても先進的だったと思いますが、私が読んだ子供の頃にもジョーは憧れの女性として映りました。ちょっとしたきょうだい喧嘩が発端でエイミーが川に落ちたり、ベスが「猩紅熱」にかかったりとハラハラすることもたくさんあり、四姉妹と一緒に1年を過ごしているような、それが長いような短いような気持ちになって読んだものです。

 

ちなみに「猩紅熱」はもう昔の物語ではド定番の病気です。『赤毛のアン』でも出てきましたし、ヘレン・ケラーは「猩紅熱」から来る合併症の髄膜炎で聴力と視力を失いました。この「猩紅熱」、大人になってから溶連菌感染症だったことを知りました。溶連菌、私は大人になってからかかったことがあります。現代の大人でも(大人こそ)辛い病気ですが、抗生剤のなかった時代、子供にとっては麻疹と同じ様に命を奪う病気でもありました。ペニシリンが発見されて救われた感染症のひとつです。日本では明治時代まで指定感染症のひとつでした。ペニシリンといえばドラマ『JIN-仁』でタイムスリップした現代の医師がかなり苦労しながらも、江戸末期に自力でペニシリンを作ってましたね。

 

『赤毛のアン』が出てきたのでさらに寄り道しますが、『若草物語』のAmazonレビューを観ていたら、恩田陸氏の『麦の海に沈む果実』に、女の子は『若草物語』が好きな子と『赤毛のアン』が好きな子に分かれて、両方を好きな人は少ない、という記述があるとか。そのレビューを書いた方が周囲の女性に聞いてみたところ、確かに両方好きという人は少ないという結果が出て、二つのタイプにくっきり分かれる、と書いてありました。そうなんですか?私は両方好きなので、ちょっと意外に思いました。閑話休題。

 

作品は、作者のルイーザ・メイ・オルコットのきょうだいである四姉妹がモデルになっているとされています。作品の冒頭はクリスマスが近いある日なんですが、子供の頃は、この物語に色濃い宗教的な描写について、まったく気にしていませんでした。自分たちの朝食を犠牲にしても貧しい人たちに施しをするくらい敬虔なキリスト教信者(当時はカトリックなのかプロテスタントなのかの区別もついていなかった)、お父さんは戦争に行っていて留守なのね、くらいに思っていましたが、改めて考えてみると、彼らは「清教徒」ピューリタンなんですね。だから「お父さま」は「牧師さん」だし、牧師さんが従軍する意味、というものが実はお話に影響があったということに、改めて気がつきました。プロテスタントの中でもピューリタンはアメリカに最初に入植した人々で、マサチューセッツ州を作りました。独立戦争でも、南北戦争でも、重要な地域であったマサチューセッツ。特に南北戦争に向かう時代、マサチューセッツは奴隷反対運動の中心だったのですね。そういうことを念頭に置きながら読むと、また違った味わいがありそうだわ、などということを思っていたら、こんな本を見つけました。

 

『マーチ家の父 もうひとつの若草物語/ジェラルディン ブルックス』2010年

四姉妹のお父さんの視点で描かれた物語で、南北戦争に従軍したひとりの男性としての語り口は、あの「お父さま」のイメージが打ち砕かれるものだそうです。いやー、実に読んでみたい。『若草物語』の中で「お父さま」の手紙は愛情に満ちた素晴らしい手紙で、姉妹が大事に大事に読んだり、お母さまがよんでくださったりしていたものでしたが、その「裏」があったとは。娘たちを「小さな婦人」と呼んで子ども扱いしない素敵なお父さまだと思っていたのに、なにやら違う顔があるのでしょうか。なにしろ『若草物語』はいろいろな事件は起こりますが、家族に関しては徹頭徹尾「綺麗な」物語なので、こういった本をファンが受け入れられるのかどうかは別れるところだと思います。ピュリッツアー賞受賞作だそうです。

 

年を取ってから再読したり、映画を観たりして、同じ物語を別の視点から考えると、また違う面白さを味わえそうな『若草物語』。また読み直してみようかな、と思います。