みらっちの読書ブログ

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繊細で優美、独特の世界に酔う【岡野玲子】

 

岡野玲子さんが好きです。

 

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2001年に手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞。
2006年に第37回星雲賞コミック部門受賞。

 

とにかく絵が繊細で優美です。そして幻想的。「筆」を使って作画されることが多く、まさに芸術です。そしてまた、岡野さんの使った資料が各巻末に載っていますが、こちらはもう教科書レベルを超えています。すごいです。こういうのを、絶賛、というのかもしれませんが、手放しで絶賛してしまいます。常日頃、季節の行事や祭事などについて気になったときには時折読み返したりします。
 

原作は夢枕獏氏で、初期の頃は原作に忠実なところもあるのですが、途中から完全に岡野ワールド全開。

 

岡野玲子さんはこの作品で「手塚治虫文化賞」を受賞されていますが、手塚治虫の息子さんである、手塚真さんの奥様でもあります。

 
この物語があまりに好きすぎてなにから言えばいいかわからないくらいですが、まず、全巻の表紙を並べて掲載したいくらい絵が好きです。そして物語の見事さ。構造も構成も伏線も伏線回収も人物も見事。岡野さんは人物を描くときは相当に史実を調べ、できるだけ忠実に描かれるそうで、そのあたりも歴史に嘘のない世界観を構築する要因になっていると思います。とはいえ、物語は時を超え宇宙に至る、想像力が限界まで刺激されるマジカルな展開。

 

陰陽師や安倍晴明の物語は、たくさんの人が題材にし、小説や漫画やアニメや映画にしている、日本ではある意味「大人気キャラ」なわけですが、その安倍晴明を、これほど見事に表現している作家はほかにいないのではないかと思います。占い師であり、天文学者であり、(身分の低い)文官でもある。野心もあれば、神聖な世界をつかさどる神官でもある。伝説の数々からは、サイキックな力もあり、オカルトも許容範囲。酸いも甘いも嚙分けている人物であることがうかがえます。クールだったり「炭火のように」熱かったり、ピカレスクな感じがするかと思えば天使みたいな顔もする、ものすごく複雑で、怪しげで、謎に包まれた男性として、豊かに表現されていることに感服いたします。

 

岡野さんの物語が進むにつれ、夢枕獏さんの原作を大切になさっている方などは、原作とのあまりに違いに、途中から、ついていけない…という気持ちになったりもするようです。とはいえ、原作者の夢枕獏さんはそのあたり、岡野玲子さんの才能を愛しつつも、自らの世界観を失わず、ゆるぎなく余裕。そう言う意味で夢枕さんはすごい方だと思います。原作は原作として、二次創作を自由に許す度量というのは、なかなかないことだと思います。

 

『陰陽師』は巻を重ねるごとに分厚くなっていき、話が壮大になっていくのでどうなるのだろうとハラハラドキドキわくわくしつつの13巻目で完結。そしてその後『玉手匣』という続編が描かれて、こちらも7巻で完結しています。これがまた、宇治拾遺集や今昔物語の世界を取り入れてもう、まさに魅惑の「匣」です。

 

 

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ついに『玉手匣』では夢枕氏が「原案」ということになったようです。1巻では晴明の息子が東寺で幻の空海と出会うシーンがあって、興奮しました。笑。

 

さて、内容については、書きません。

その時代の「しくみ」まで迫る緻密なストーリーに、見えない世界が絡み、鬼が出てあやかしが出て霊魂が出て、式神を操りそれらを鎮める「安倍晴明」。そこにナチュラルに神に愛される相棒の源博雅と、晴明を支える妻、真葛が素晴らしいアシストを展開。それをささえる岡野玲子さんの冴えわたる資料解釈と感性の塊のような絵。素晴らしいです。作中には篳篥や笛など楽を奏でる場面も多いのですが、実際に音楽、特に雅楽にも造詣が深いとのこと。というか、造詣の深くない分野がおありなのでしょうか、と思うくらい、どんな分野でも深く深く掘り下げられていて、お見事としか…

岡野玲子さんの作品は、力士の恋愛を描いた『両国花錦闘士』、禅寺の跡取り息子のコメディで映画化もされた『ファンシィダンス』、『コーリング』『イナンナ』などそこまで数多くはないけれども力作ぞろい。

中でも陰陽師の次に好きなのがこれ。

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:book:297611:妖魅変成夜話 1:

中国(唐)が舞台の神仙のお話です。この作品あたりから完全に筆で作画されるようになってきたのではないかと思います。独特の世界観とユーモアに魅了されます。西遊記とか水滸伝とか金庸とか、チャイニーズファンタジーがお好きならばぜひ、読んでいただきたい作品です。

岡野玲子さんのマジカルで不思議な世界と筆が織りなす芸術的な絵から、二十年以上前くらいから、ひそかに岡野玲子さんの「タロットカード」が見てみたいと思っている私です。きっとすごく魅力的なタロットカードになりそうな気がします。

魅惑の岡野玲子さんの「ザ・ワールド」(DIOのスタンドの話ではありません。笑)、ぜひご堪能いただきたく思います。

 

※2023年追記

岡野さんのことではありませんが、このところ「AIでブラックジャックの続編を制作」が話題です。ニュースやテレビの番組で岡野さんのご主人、手塚真さんをお見掛けすることが増えました。このブラックジャックについては賛否両論のようですね。ブラックジャックを心から愛する私にとっても無視できない話題ですが(笑)、私は「全く別の新しい二次創作」という受け止めです。手塚先生の絵柄ソックリに描ける漫画家さんも多数存在しますし、「ヤングブラックジャック」など別の漫画家さんが続編を描くといったことと同じようなことかなと。「AIブラックジャック」は半年ほどかかったとのこと。手塚治虫は何本も連載を抱えて寝る間も惜しんで物凄いスピードで描いていたそうですから、もうそこからして違いますよね、と思いますね。これについてはまた、別の時に書こうと思っています。「はてな」でスタートしようとしたブラックジャックネタも完全に止まっていますし。笑

 

※2023年10月1日にサービス終了となった「シミルボン」では、希望者ひとりひとりに投稿記事のデータをくださいました。少しずつ転載していきます。

初回投稿日 2021/3/12  0:06:23