みらっちの読書ブログ

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パンデミックの世界を生きる少女たち【がっこうぐらし!/原作:海法 紀光・作画:千葉 サドル】

こんにちは。

 

2019年に始まったウイルスの流行が、2020年にはついに世界中に広まりパンデミックになった世界に、今、私たちは生きています。

 

今日ご紹介する漫画は、もっと過酷な「パンデミック」を体験した少女たちの物語です。

 

がっこうぐらし/原作:海法 紀光・作画:千葉 サドル】

www.kinokuniya.co.jp

 

以前、お友達の中学生の娘さんがハマっていると聞いたことがあり、Amazonで1、2巻だけタダだったので読んでみたら、全巻読んでしまい、結局大枚払っていた、という作品。Amazonの思うつぼ。書店で普通に見たらまず手に取らないですね。作画もいかにもな「日常ほのぼの漫画系」ですし、内容もいかにも「学園もの」っぽい。

 

いやしかし、この「いかにも~っぽい」が曲者でした。

 

中身は「ゾンビ系学園ホラー」。と言ってもグロテスクなシーンはそんなにありません。絵が可愛らしい(可愛すぎるくらい)のでゾンビもリアルではないため、そこまで怖くはないのですが、それより物語の展開がスリリング。正直、簡単にあらすじを説明するのが困難です。いやー、困難、というか、「ゾンビウイルス・菌(このふたつを並列するのは意味あり)が蔓延してパンデミックになった世界で逃げ続ける少女たちの話」とまとめてしまえばたった一行なんですが、張られに張られまくった伏線、過去や今後を予感させる「匂わせ」のセリフ、この世界が「どんな世界か」を読者が知ったときの「ハッとしてゾーッ」(あ、すみません。トシがばれますが元ネタはトシちゃん)のシーンの連続。その上に少女期のいろんな要素がてんこ盛りに詰まっている、なかなかハードなお話でした。

 

原作はラノベで、ラノベが先のコミカライズ作品。アニメ化(2015)・昨年2019年に実写映画化もされています。アニメと映画は観ていないので、コミック中心のブログになります。

 

可愛らしいキャラクターで、ほのぼのと日常を送っている(ように見える)彼女たちの第一話は、実に何気ない感じで始まります。主人公の由紀は「めぐねえ」と呼ぶお姉さんのような親しみやすい先生と会話してから自分の部活「学園生活部」に向かいます。そこで待っていたのは、カンパンを食べていたくるみ。彼女との会話から、彼女たち「学園生活部」学校で合宿しているということが説明されます。園芸部の手伝いに行っているという部長のりーさんを探して、屋上に向かう由紀。菜園を作っている園芸部と談笑し、グランドで練習する野球部に声をかけ、生徒のたくさんいる教室に忘れ物をしたと入っていくのですが、しかしそこで突然すべてが暗転。「忘れ物しちゃって」と言い訳しながら教室にいるのは由紀ひとりだけ。室内は荒れ果て、窓ガラスは割れ、いすや机は倒れ、所々に血がこびりついている教室で、由紀はひとり笑顔で話し続けます。まるでそこに友達がたくさんいるかのように。

 

そこからはくるみや、りーさんの独白が始まります。彼女たちの回想から、学校にいる間に突如人間がゾンビ化し、学校だけでなく市中すべてがゾンビだらけの世界になっていることがわかってきます。つまり彼女たちは学校で合宿をしているのではなく「学校に閉じ込められた」状態だったのです。しかしあまりのことに現状を受け入れられず、幼児退行し、まるで学園の人々が普通に存在しているかのように話をするなど、精神的に不安定になった由紀を慮り、くるみりーさんは「今は学園生活部の合宿中だ」という演技をしています。彼女たちは規則正しい生活を送り、学校生活そのままに互いに教えあって自習をし、部活をし、屋上菜園で育てた野菜と学校の緊急用の備蓄(これがまた伏線)で自炊しながら生活していました。

 

そのうちに、一緒に生活している部活の顧問の先生「めぐねえ」にも違和感を感じる場面が出てきます。彼女と会話が成立しているのは由紀だけ。実はめぐねえもすでに死者(ゾンビ)だったのです。由紀が見ている「めぐねえ」が霊なのか、由紀の幻覚なのかはわかりませんが、実在しているかのように「めぐねえ」と自然に会話する由紀。くるみりーさんはできるだけ由紀の見ている世界を守ろうとしていますが「遠足」と称して食料調達に出かけたショッピングセンターで出会った生存者「みーくん」を仲間に入れることによって少しずつ亀裂や違和感が目立ち始めます。

 

その後、「みーくん」が由紀くるみりーさんを理解して仲間になっていく過程があり、由紀がめぐねえがゾンビ化したことも思い出し、その結果くるみがウイルス(とその時は思われていた)に感染していることもわかります。そのうえ学校にいられなくなる事態も発生、そこから急激に動きが出ます。そこからはもうスリラー&サスペンス。それまで由紀のために「遠足」だの「文化祭」だの、何かが起こるたびに学校行事として胡麻化しながら物語が進んできましたが、学校に住めない以上この先の選択肢は二つでした。就職か進学か。一緒に勉強したいという由紀の言葉に全員で「卒業して大学に進学し」することにして大学に向かいます(これはそれなりの理由がありますがネタバレなのでヒミツ)。

 

学校を出て外の世界を大学に向かう道中でも様々なアクシデントがあり、なんとか必死に大学にたどり着くものの、そこでは広い敷地で大学生たちが派閥を作ってサバイバルしていました。そこでも様々な事件があり、いろいろな人と出会い、揺れる少女たち。由紀の精神状態はいったりきたりですが、それでも由紀の明るさはみんなを励まし、くじけそうになるサバイバルを生き抜く力になっていきます。

 

ここから先は、もうネタバレできません。「しょせん漫画だろう」と侮るなかれ、結末に向かうにつれ推理・推測は深まり、命がけの逃避行、過去の歴史の謎がとかれ、アクション、どんでん返し、伏線回収、とにかくよくできています。ちょっと前の作品ですし、大人はなかなか手に取ることもない漫画かもしれませんが、先入観を取り払ってぜひ読んでみてもらいたいなと思います。

 

たとえば由紀以外の人物が主人公だったら、この物語は信じられないほど暗く絶望に溢れた物語になってしまうと思います。現実逃避して病に逃げ込んでいるような主人公ですが、彼女の見ている「明るくて希望のある世界」に、周囲が助けられていきます。また、彼女の言葉は追い詰められた分かれ道で生存への方向に舵を切ることが多く、一種の巫女としての役割も果たしています。一方で主人公も、人との出会いを通して、現実に立ち向かう勇気を奮い起こしていくのです。互いに信じあい、支えあい、希望を失わないことで、彼女たちの命運が決まっていく物語。

 

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 実に、示唆的。この世のあらゆるパンデミックは、こうして始まるのかもしれません。