みらっちの読書ブログ

本や映画、音楽の話を心のおもむくままに。

まるでひとつなぎの大秘宝【父の詫び状/向田邦子】

こんにちは。

 

先日、母と電話で話していて

 

「そういえばあなたの高校受験の国語の試験は向田邦子さんの『父の詫び状』だったね。帰ってきてから答え合わせしたのを鮮明に覚えている」

 

という話になりました。

 

私は「そうだった、か、ねえ…」と言いながら、実はちょっと覚えていませんでした。そうだったっけ。向田邦子さんだったかな。父の詫び状?うーん、記憶が曖昧。70代後期高齢者の母の記憶の確かさに感心しながら、今こうして母と向田邦子さんについて話せるなんて嬉しいことだな、と思いました。

 

その話になる直前に、ちょうどこちらの記事を読んでいて、

digital.asahi.com

 

そう言えば、今年が没後40年だという記事を見たな、と思い出していたところでした。

 

向田邦子さんの事故は衝撃でした。ニュースをテレビで見たのを覚えています。当時向田邦子さんという人のことは良く知らなかったけれど、テレビのドラマを書く人だということは知っていました。台湾の国内線の事故で、『思い出トランプ』の中の連作短編で直木賞を受賞した直後でした。享年51歳。

 

そんなわけで『父の詫び状』を本棚から出してきて再読。

 

昔の文庫本はだいぶ色あせていましたが、それ以上に困ったのは字の細かさ。こんなに字、細かかったっけ?今の文庫本は全体にフォントも字の大きさも読みやすくなっているのが多いのだということを、改めて認識させられました。

 

『父の詫び状』は、エッセイ集です。向田邦子さんの随筆家としてのデビュー作で、昭和の家族を鮮明に描いた名作とされています。1978年(昭和53年)に単行本として出版され、三年後の1981年、文庫本化しています。

 

今回、改めて発見がありました。解説を沢木耕太郎さんが書いておられるのですが、それが昭和56年、つまり1981年9月。解説を書いている途中で向田邦子さんが事故に遭われて亡くなったと書いてありました。

 

文庫本の解説は、向田さん自らが沢木耕太郎さんに依頼していたとのこと。沢木耕太郎さんは、自分が解説に選んだエッセイにどこか陰りのあるイメージのあるものが多かったことをあげ「今となってはどうしてもっと華やかな文章を引用しなかったかと悔やまれる」と書かれています。ルポルタージュ作家である沢木耕太郎さんが、リアリティというよりは生々しさの残る解説を書かれていたことに、前回文庫本を読んだときはあまり気にも留めずにいたんだな、と思いました。

 

表題作の『父の詫び状』は、武骨で怒ってばかり、普段娘に素直な感情を見せない父親が、自分の不始末から娘が嫌な思いをしたことに対し、娘が家を出た後にようやく手紙で、不器用な謝罪をした話です。いえ、娘がそれを「精一杯の父の謝罪なんだな」と受け止める話、と言った方がいいかもしれません。

 

沢木耕太郎さんも指摘されていましたが、向田邦子さんのエッセイは、話につながりのないような小さなエピソードがいろいろな方向からちりばめられ、それが最後にはうまい具合にひとまとまりになる、という特徴があります。それが職人技のように絶妙です。

 

『父の詫び状』も、冒頭はひとり暮らしの自宅に届いた伊勢海老の話から始まっています。それがいつのまにか、マジックのように思いがけない素敵な料理に調理され目の前に置かれている感じ。あるいは切れ端が集まって素敵なお洋服が出来上がってた、みたいな。漫画ワンピースの「ひとつなぎの大秘宝」=「ワンピース」みたいです。あ、まだ漫画ではその大秘宝が何かはわからないんですけれども。笑。

 

今回は「どこが試験問題だったかなぁ」などと思いながら読んだのですが、気がついたらそんなことは忘れてついついほかのエピソードも読み耽っていました。向田邦子さんのエッセイにはそんな魔力(魅力)があります。戦争の時の記憶も、大変な状況の中にユーモアや鋭い観察眼が垣間見れたり、お友達の女優さん、森光子さんや黒柳徹子さんのエピソードも出てきて、特に留守番電話の挿話にはつい、笑ってしまいました。何気ないエピソードを、40年後に読んでもまだフレッシュなまま受け止められる文章って本当にすごい、と思います。

 

そして改めて、エッセイを書いた当時48歳だった向田邦子さんの、乳癌の受難やひとりで生きる女性としての様々な葛藤を感じました。いつのまにか彼女の年齢を追い越してしまったけれど、彼女の心の揺れや機微がわかるようになったことには少なからず満足を覚え、そして彼女の文章をさらに愛おしく思えました。

 

母との話で、妹さんのエッセイがあるはずだということになり「あるなら読んでみたいな」と言ったのですが、前に出たものならそういえば読んでいました。

 

books.bunshun.jp

 

確か図書館で借りました。自分で仕立てたモードなお洋服を着たり、仕立て直したお着物を着て、ちょっとした小鉢をささっと作り、凛としてスタイルがあり、お綺麗で、粋で…本当に素敵な方だったのだなと、その時思いました。

 

今年になってから妹さんがインタビューに答えた記事がこちら。

 

www.fujingaho.jp

 

ご存命だったら「あてがき(役者を想定して脚本を書くこと)」で書いていただいたドラマに出たかった、と小泉今日子さんも冒頭の記事でおっしゃっていました。向田さんの大ファンである小泉今日子さんの、それはまた年齢を重ねた自信でもあるのかな、と思いました。