みらっちの読書ブログ

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ダンスなんてうまく踊れないけれど今だけは踊りたい気分【その女、ジルバ/有間しのぶ】

こんにちは。

 

漫画特集、第三弾です。

【その女、ジルバ/有間しのぶ】

 

その女、ジルバ 1巻

 

 「バー・オールド ジャック アンド ローズ」は終戦直後から夜の世界で生きてきたホステスたちのバーです。 ホステスの平均年齢は70歳以上。その店は伝説のママ「ジルバ」の店でした。

 

笛吹 新(うすい・あらた)は福島出身のアラフォー女性。もともと大手百貨店でアパレル店員として働いていたのですが、リストラされ今はスーパーの倉庫で働いています。 恋人なし、貯金なしでこの先の人生に漠然とした不安を抱いていました。 人生の様々なことをあきらめかけていた新でしたが、ある時「BAR OLD JACK & ROSE」の求人広告を見て応募。見習いホステス「アララ」として働きはじめます。ひよっことして扱われて、新は「もしかして40歳って、ものすごく若いんじゃないかな」と思います。そこで出会うホステスたちの人生の物語に、涙し、笑い、その店を築き上げた「ジルバ」という女性の人生に思いを馳せる物語です。

 

40代になると「将来」というものが「今」であることに気づいて愕然とすることがあります。昔は「すごく先」だと思っていた「将来」というのがまさに「今」で、自分が思い描いていたものとは全然違っていたりします。そのうえこれからの「将来」というのは明らかに「老後」であるという現実に突き当たります。

 

小野小町が「はなのいろはうつりにけりないたづらにわがみよにふるながめせしまに」と歌ったように、どんなに容色の良い女性でも年は取ります。ちょっと前は「美魔女」などという存在がいましたし(今もいるか)、女優の石田ゆり子さんなんかを見ると「うわー変わらない美女っているんだね」と思いますが、まあたいがいは、年を取ります。童話も漫画もドラマもアニメも映画も小説も、たいていは「年取ったあとのことなんて知ったことか」という感じです。お姫様と王子様は末永く幸せに暮らしましたとさ。もちろん、そうではない作品もありますが、たいていは青春の懊悩とかアオハルの恋愛とか若き日の冒険とか挑戦、そういうのがテーマになるものです。最近は、池井戸潤さんの小説のように、おっさんたちの奮闘記もおおいですけどね。

 

でもこれほど年齢を重ねた、しかも女性に焦点を当てて描かれた漫画はかつてなかった、と思います。女の人生、まったくひと筋縄ではいかないものです。特に、戦後の混乱期、ブラジルからの引き上げ船に乗った「ジルバ」の人生は、波乱に満ちていました。彼女の魅力に惹かれ、あるいは助けられて集まってきた女性たちも激動の人生に翻弄されてきた女性たち。その人生が赤裸々に語られ、あるいはそっと秘められた物語を紐解いて、物語は展開します。

 

新は写真でしか見たことのないジルバが同郷だと知り、さらに彼女に興味が湧いてきます。過去と現在が交錯する中、バーという異世界でひとときの夢を提供する彼女たち。

 

時に、年齢を重ねることが怖くなるのが日本という国のひとつの特徴でもあると思います。もともと、女の子という弱者からのスタート、いちばん華やかな若い時でさえ女として弱者、さらに老女という弱い存在になっていく自分。もう強いときなんてなく、いやおうなく蹂躙され、踏みつけられる存在。そして戦争。何度へこたれても、これ以上辛いことはないと思っても、それに輪をかけるような過酷な出来事がやってくるのです。本来は涙なしでは語れないことばかり。それを跳ね返すように笑う、70代以上のお姉さまがたのパワーに圧倒されます。

 

もうね、ポジティブな名言だらけです。

 

「何だって笑ってやる。笑い飛ばしてやる。かかってこい」

 「この世には楽しむために生まれてきたのよ」

「女は40から!」

 

第23回手塚治虫文化賞マンガ大賞受賞作品です。

やっぱり、手塚治虫文化賞にはハズレなし。

 

そしてこのブログを描き始めてから知りました。なんだ、ドラマ化してたんですね!

1/9(土)から深夜枠で、池脇千鶴さん主演でドラマが放映されているみたいです。池脇千鶴さん久しぶり、な気がします。草笛光子さん、中田喜子さん、中尾ミエさんってすごい女優さん目白押しじゃないですか!いや、全然、狙ってません。ほんと、ブログ始めてからこういう偶然が多くてびっくりです。

 

「女性」「戦争」「原発」「雇用問題」、現実にある問題の、ありとあらゆることが、中島みゆきの「糸」みたいに縦横に絡み合い、物語を織りなしていく漫画です。といって読後感は重くなく、爽やか。良かったらぜひ。

 

追記:ドラマを観ました。草笛光子さんのくじらママ、ぴったりでした。池脇千鶴さんのアララはもちろん、原作ではあまり描かれないアララの本業、スーパーの倉庫の人間関係もうまく演出されていました。江口のりこさんがとても良かったです。